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池明観『「韓国からの通信」の時代』(影書房)

何だかんだと四半世紀にわたって翻訳の仕事を続けているが、そのなかでも特に印象深い仕事の一つが、『追悼集・安江良介 その人と思想』という本に収録された2本の追悼文の和訳である(つまり元は英語で寄せられた追悼文だった)。そのなかで、雑誌「世界」に掲載された「T・K生」という匿名筆者による連載「韓国からの通信」への言及があった(あって当然なのだが)。

本書の存在を知って「ああ、この人(著者)が例のT・K生さんなのか」と思って、読むことに。

読んで、衝撃を受けた。何にって、自分が隣国の状況にあまりにも無知だったことに。

そりゃまぁ、朴正熙(朴槿恵の父親ですな)については1979年に暗殺されているから、まだ中学生になるかならないかだった私が名前くらいしか覚えていなくても無理はない(「ボク、大統領!」とか言ってましたな、ガキだから)。

でも、その後を受けた全斗煥政権の時期は私が大学生だった頃と重なっているわけで(全斗煥は1988年退陣)、しかも私自身、周囲に比べれば政治意識の高い学生だったはずなのに、これほど苛烈な民主化闘争が戦われていたことについて、ほとんどまったく無知だった。「光州事件」という言葉くらいを知っていた程度か。本書の後半では、朝日新聞がこの状況についての報道を頑張っていた状況が語られるのだが、当時、我が家は朝日新聞を購読していたのになぁ……(「世界」は読んでなかった)。

学生自治会などの場でも、「韓国学友に連帯しよう」みたいなテーマが出ていたような記憶がない……。

で、もちろん本書は明確に一方の立場から書かれたものであるという留保を念頭に置きつつ、それでもなお「独裁体制と民主化勢力のあいだの戦いというのは、こういうものなのか」とか「韓国国民(の少なくとも一部)のあいだに日本に対するネガティブな感情があるとすれば、過去の植民地支配などと並んで、この時代の日本の政策にも原因があるんじゃないか」といった知見、そしてもちろん今般の朝鮮半島情勢について、相当に広角レンズ的な背景把握も与えてくれる本であるように思う。

図書館で借りたときには「あ、こりゃ期限内には読み切れないな」と思ったのだが、1週間延長して、結局完読してしまった。三部構成で、基本的に同じ流れを視点を変えつつなぞっていくような作りなので、読み進むにつれてペースは上がる(背景知識が整っていくから)。

で、図書館で借りて完読したのだけど、これは買おうと思う。ソフトカバーの本にしては高額だけど。

サマセット・モーム『英国諜報員アシェンデン』(金原瑞人訳、新潮文庫)

大学時代の友人が誉めていたので気になって読む。

短編連作というか、1章1エピソードのものも、2~3章で1エピソードのものもあるのだけど、形のうえでつながっていても、それぞれの章に独立した味わいがあるように思う。

で、だいたいにおいて、オチがあるようでオチきっていないというか、割り切れなさや苦さ、不条理感が残る。そこがいい。

永田和宏他『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』(文春新書)

山中伸弥・羽生善治の対談本が面白かったので、この2人が登場する企画モノであるこの本を図書館で予約してみた。人気があるようでだいぶ待たされたのだが、順番が回ってきて借り出してみたら、先日カンヌでパルムドールを受賞した是枝裕和さんも入っているではないか。もう一人は京大総長の山極壽一さん。

やっぱり山中さんの話が面白かったかな。ラグビーをやっていなかったらiPS細胞の開発もなかったのだ、というのは「風が吹けば桶屋が儲かる」よりは因果関係が濃いと思うよ(笑) 『友情』も読んでみようかな。

で、やはり以前から馴染みがある分、羽生さんの話は別に刺激がないなぁという読後感だったのだが、フレーズとしていちばん印象に残っているのは「様々な種類の物差しを持つ」という奴だなぁと思って、これ言っていたの誰だっけとページを繰ったら、羽生だった(笑)

続編も出ているようなので、いずれ、機会があったら。

 

かこさとし『未来のだるまちゃんへ』(文春文庫)

追悼。

『だるまちゃんとてんぐちゃん』あたりは私も幼い頃に読んだはずで、もう一度読み返してもいいなと思ったのだけど、この、大人向けの自叙伝的エッセイがあるのを知って、図書館で借りて読んでみた。

子どもと真剣に接する機会の多い人、つまり子育て中の人や教師はぜひ読んでおくべき本かもしれない。真摯で誠実なのだけど、どこか森毅さん的な「ええかげんさ」があって良い。こういう大人に接することのできた子どもは幸せだと思うのだけど、実はその分、自分の子どもをけっこうほったらかしにしてしまったことを悔いているところが、世の常という感じで面白い。

そしてやっぱり、彼の絵本作品を読みたくなるなぁ。

 

J. K. Rowling, Harry Potter and the Goblet of Fire (Kindle version)

確か先週土曜日に読了。

前作よりさらに180ページ長くなっているのか……。

以下、ネタバレ。

これはDumbledore先生、ダメでしょう。自分のミス(なりすましを見抜けなかった)で生徒1人死なせちゃったようなものなのだから……。

他国の魔法学校の生徒も英語で話していることになっているのだけど、たぶんイギリス人から見たフランス訛りや東欧訛りのステレオタイプなのだろうなぁと思えるところが興味深い。

次作も読むと思うけど、ちょっと他にも読むべきものが溜ってきてしまっているので、しばらくお休み。次はさらに長くなるのか……。

 

 

平川克美『21世紀の楕円幻想論 その日暮らしの哲学』(ミシマ社)

確か5月2日に読了。

近所の書店でパラパラとめくったら、借金を返すために全財産を手放したような話になっているから、以前から何冊か著書を買っている身としては、こりゃ応援しないと、と購入。

そういう状況で書かれていることもあって、人間存在にとって何が負債であるのか、といったテーマが非常に面白かった。あとはもちろん、等価交換は関係のリセットであるとか、ITによって貨幣を介さない等価交換を実現する試みの紹介とか……(いま手許にないので言葉づかいが不正確なのはご容赦)。

これまで読んだこの著者の作品のなかでいちばん面白かったかもしれない。たぶん再読する。

J. K. Rowling, Harry Potter and the Prisoner of Azkaban (Kindle version)

3作目。やっぱり一週間くらいかかったけど、Amazonでの紹介だと前作より100頁くらい多いようだから、やはり多少は読むのが速くなっているのかな。

「前2作の展開からして、これが伏線だな」とか思っていると全然違っていたりするので、筋立てそのものは面白いといえば面白いのだけど、少しばかり……飽きてきた(早すぎ?) 理由はいくつかあって、キャラクターが固定化されすぎているのと、基本的に舞台が学校内に限定されていること(これは次作あたりで広がっていくのだろうか)。あと、児童文学としては盛り上がるところなのかもしれないけど、Quidditchの試合のシーンがわりとワンパターンで退屈してしまう……。

例によってDumbledore先生のお話。”The consequence of our actions are always so complicated, so diverse, that predicting the future is a very difficult business indeed. ” と、 “But trust me  …  the time may come when you will be glad you saved his life.” は、モリアでガンダルフがフロドに言ったことを思い出させる。

紙の方ではどうか分からないけど、kindle版だと(翻訳でも)、終った後に次作の冒頭部分が読めるので、つい次も買ってしまいそうだ。

 

清水潔『「南京事件」を調査せよ』(文春文庫)

Twitterなどでも良く名前を見る著者だし(と思ったがフォローしていなかった??)、主題に興味もあるので読んでみた。

本書でも参考文献に挙げられている『南京大虐殺否定論13のウソ』を読んでいたこともあり、事件の解釈自体には(個人的には)新鮮味はないのだけど、歴史修正主義者の論法を「一点突破型」とする説明には膝を打った。

しかしそれより何より、この本の優れたところは、「(後代に)謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」という安倍の言葉に対して、正面から疑問を投げかけるところにあるように思う。そして、その疑問を私も共有する。

 

 

 

岡野大嗣『サイレンと犀 (新鋭短歌シリーズ16) 』(書肆侃侃房)

誰かのSNS投稿で知って、図書館で借りてみた。

現代短歌にはどうもある種の癖というか流行りがあるような気がして、ときどきそれが鼻につく気がするのだけど、とはいえ、よい歌もいくつもあった。音楽と将棋が好きそうなのが良い。6五に桂馬を跳ねる歌が好き。

 

J. K. Rowling, Harry Potter and the Chamber of Secrets

というわけで、二作目は原書で読んでみた。15日に読了。3倍くらい時間がかかるかなぁ(そして日本語で読むのと違って眠くなる…)。

ふだんの時事・実務方面の翻訳では目にすることの少ない、口ごもる、もごもご言う、憤慨する、いきり立つ、みたいな表現がたくさん出てくるのに戸惑うけど、まぁ小説、それも児童文学なら当然か。慣れてしまえば問題ない。

基本的に、事件が解決されたあとでDumbledore先生が大事なことを言う、というのがお約束なのだな。一作目の、 “Always use the proper name for things. Fear of a name increases fear of the thing itself. ” とか、”It takes a great deal of bravery to stand up to our enemies, but just as much to stand up to our friends.” 、この二作目なら、 “It is our choices that show what we truly are, far more than our abilities.” とか。

三作目も原書をkindleで購入。何作目まで読むのだろうか……。