この本の優れた点は、著者が相当に理想主義的であるところだ。本文中では、現実と理想の対比はさらりと触れられている程度だけど。
全体を貫いているのは、賢明な、いや正確には「賢明でありたいと願う」市民が、何らかの形で関与しつつ社会を運営していき(”This is what democracy looks like.”)そのために必要なリソース(の一部)をジャーナリズムが提供する、という理想主義的なビジョンだ。
もちろん、先日の統一地方選挙前半の低投票率にも象徴されるように、この社会のかなりの部分は、自分が「民主主義を運営する市民」であるとは露ほども考えていないだろうし、そもそも「市民」を罵倒語として使う連中すらいる。そういう人たちは決してこの本を(あるいはどの本も)手に取らないというのが現実だろう。
とはいえ、「現実は…だから」を根拠とする「現実主義」的な言動は、よく言えば冷笑的であり(よく言ってないね)、わるく言えば、というか実際にはその大半は欺瞞であると私は思っている。
その「現実」は、実際には特定の視点から恣意的に切り取られた一側面でしかなく(場合によっては一側面ですらなく)、しかも、そういう現実主義者にはその「現実」を主体的に変えていく意志も能力もまったく欠如しているのだから。
というわけで、できれば「現実主義者」に堕することを避けたいと願っている自分にとって、遠慮がちにではあれ理想の旗を掲げてくれている本書の著者は、だいじな一つの道標とでも言うべき存在である。