すごく面白い。
テーマが深刻で、なおかつ未解決にして進行中の状況なので、面白いとか楽しいとか表現してしまうのは不適切なのだが、ついそう言いたくなる。
末尾を除いて対談形式にはなっていないが、「聞き手」は川端裕人。その川端の小説『エピデミック』を昨年5月に読んだので、この本はなおさら興味深い(西浦はこの作品でアドバイザー的な立場だった)。何しろ、小説に出てくる「2×2表」やFETP(実地疫学専門家養成コース)の人々が、今のリアルな状況のなかで活躍するのだから。
「8割おじさん」こと西浦は、つい昨日だかも「GoToトラベル」が第三波の到来に与えた影響を明示して話題になっている。「対策無しなら重症患者は85万人、その半数が死亡」という有名な予測を含め、彼の言動や、彼の参加したクラスター対策班/専門家会議が打ち出した対策などへの批判や不満が出るのは当然だし、その中には正当なものもあるだろう。
それにもかかわらず(いや、だからこそ)、彼らがどういう状況のもとで、どういう考え方に基づいて、そのような言動や対策に至ったかという経緯は、やはり面白い。面白いといって悪ければ、実に興味深い。
この本で語られている経緯のなかから、西浦、あるいは専門家会議の姿勢に何か問題を見出すとすれば、それは恐らく、「これだけやっておけば制圧可能」というスマートで効率的な対策に依存してしまった、ということなのではないか。
まっとうな科学者には想像もできないような愚にもつかない障害というものが世の中にはあって、その障害が発動した場合にはスマートで効率的な対策は無化されてしまう、という警戒が薄かったのかもしれない。もっとも、そうした状況を取り繕うことのできる二の矢、三の矢が実際にありえたかというと難しいところかもしれないが。
本書で語られているのは11月以降の「第三波」に至らない段階までの話なのだが、その後の推移も含めて、「答え合わせ」的な面白さもある。
新型コロナウイルスやCOVID-19、免疫のシステムやワクチン、PCR検査などに関する基本的な事項を知るという点では、先に読んだ『新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実』の方が優る。しかし、新興感染症への対応、あるいはもっと広い文脈において、この日本という社会に何が最も欠けていた(欠けている)かという示唆を読み取るうえでは、この本の方が価値は高いかもしれない。