月別アーカイブ: 2016年10月

水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)

話の進め方が乱暴というか、あっさりと断定してしまう論調が少し気になるし、そういう意味では細かいツッコミを入れる人は入れるんだろうけど、新書のボリュームにこれだけ巨視的・俯瞰的な内容を盛り込もうとすると、それもやむをえなかったんだろうな、という印象。

全体としての主張は納得がいくものです。しかしソフトランディングは……難しいんだろうなぁ……。

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書) : 水野 和夫 : 本 : Amazon

 

にぎやかな眠り【新版】 (創元推理文庫) | シャーロット・マクラウド, 髙田 惠子

真面目なテーマの本ばかり読んでいるとだんだん頭が悪くなってくる気がする、というのは、たぶん大学生の後半くらいに感じ始めたことだと思う。 部品を組み立てて頭の中に何かの建物を構築していくだけではダメで、ときどきは(というかそれなりの頻度で)きちんとストーリーがあるものを読んで、頭の中に川が流れていくような回路を作らないと、ダメなのだと思う。

というわけで何かそういうモノを読みたいなと思ったところ、家人が知人に紹介していたのに便乗して、これを読んでみた。 うん、面白かったです。雰囲気が好き。

ただし真犯人が、そこまでやるような悪い人に思えなかったし、そのへんの説得力が弱いような気がしたけど。

というわけで、これから読む人、「そこまでやるような悪い人に思えない人」が犯人ですよ~。ってあんまりネタバレにならないんだよな。あんまり悪そうな人が出てこない、平和な町だから(笑)

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち 電子書籍: マイケル・ルイス, 渡会圭子, 東江一紀

このあいだダークプールとHFTをテーマとする論文のトライアル翻訳が来たので……と書いて、「ああ、そういう話ね」と察してくれる人は私のFacebook友達のなかにも数人しかいないと思います。

で、もちろん私もちんぷんかんぷんだったわけですよ。 トライアルなので時間の余裕もあまりなく、ネットで調べた細切れの知識をもとに苦しみつつも何とか仕上げて提出した後、その方面に強そうな知人に「こんな原稿がありまして」と愚痴ったところ、彼がこの本の名前を挙げたので、読んでみました。

いやぁ、なかなか面白かったです。この本を読んでいたら、先だっての原稿も「ああ、あの話来たー」みたいな感じでやれた気がします。やはり、こういうちょっと専門性の高い新しモノにも、もう少し気を配っていないといかん。まぁ、今思うと「あそこは失敗したな」と思う部分もあるとは言え、それなりに頑張って訳していたかな(笑)

タイトルにある「フラッシュ・ボーイズ」(といっても「本人たち」は登場しないのですが)の手口は、自分が特権的に他人よりも早くアクセスできる市場で小口の売買注文を出して他の投資家の動向を探り、その情報がまだ行き渡っていない他市場に「先回り(フロントランニング)」して、その動向に対して有利になるような取引で稼ぐ、という方法。

こういう、情報入手速度の差を利用してアンフェアに稼ぐ(あるいは露骨に詐欺をやる)というのは、映画『スティング』あたりにも通じる話で、昔も今も変わらんなぁという気もします。 しかし、こちらは何しろ現代なので、その「他人よりも早く」とか「その情報がまだ行き渡っていない」という情報のズレの尺度がマイクロ秒単位の話なのです。マイクロ秒ってことは、つまり1億分の1秒だか10億分の1秒だか、そんなところです……と、もはや1桁違ってもどうでもいいくらい(笑)身体的な実感のない時間なのだけど、それが億ドル単位の得失につながっていく、という話(あ、副題に「10億分の1秒の男たち」とあるから、10億分の1秒でしょうね>マイクロ秒。しかし「男たち(ボーイズ)」とは限らんよなぁ、というのはまた別の話)。

何か、当たり前ですが、先日読んだ『不屈の棋士』の人工知能(将棋ソフトウェア)あたりにも通じていく世界です。

で、この本はそういう方法は全然フェアじゃないだろう、と感じて、そういう「捕食者(predator)」の暗躍を許さないような、新しい取引所を設立しようとする人物を中心としたノンフィクションなのでした。

しかし、マーケットそのものが構造的にアンフェアならば、資本主義に大義はないよね……。

 

情報源: Amazon.co.jp: フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち 電子書籍: マイケル・ルイス, 渡会圭子, 東江一紀: Kindleストア