にわかウクライナ通と笑わば笑え、不幸な出来事がきっかけであるとしても、こういう機会にこれまであまりご縁がなかった国や社会について多少なりとも知るのは、決して悪いことではないはずだ。
本書は駐ウクライナ大使だった著者が、紀元前からソ連崩壊後の独立に至るウクライナの歴史を、情熱と愛情を込めて語る体裁。一貫して「ウクライナびいき」ではあるのだが、なぜウクライナの独立がこれほど困難だったのかといった分析にしっかり冷静さが感じられる。
もちろん、昨今の悲惨な展開について日々の報道を追う際におおいに参考になることは言うまでもない。原子力発電所をめぐって頻繁に目にすることになったザポロージェという地名は実に由緒ある場所なのだなぁ、などという具合に。
この戦争は、今日(3月19日)の時点では、ウクライナの勝利(&ロシアの中長期的かつ不可逆な没落)に終るのではないかと私は思っているのだが、そうすると、ウクライナは著者のいう「ヨーロッパ最後の大国」として存在感を強めていく可能性は高いかもしれない。
個人的には、亡父が専門的に研究していたオノレ・ド・バルザックとウクライナ(相手はポーランド貴族だが)のご縁がいちばん印象に残った。