月別アーカイブ: 2019年6月

白井聡『永続敗戦論』(講談社+α文庫)

やはり日本には一度この本で書かれているような意味での「革命」が必要なんだろうなぁ。もちろん共産革命ではなくて、人間革命……は創価学会になっちゃうか(笑) あ、そうか文字どおりの意味で「市民革命」と呼べばいいのかもしれない。

先日来すこし話題になっている半藤一利のインタビュー記事も想起される。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190621-00010004-friday-soci

図書館で借りたけど、やや消化不良の感があるので、これは購入して再読すべきかもしれないなぁ。

保守論客に分類される人たちだけど、福田恆存や江藤淳あたりにも興味を惹かれる。

あ、それと「解説」は何だかよく分からなかった。廣松渉への言及なんてあったかな。直接言及はしていないけど、それと察するのが当然、みたいな話?

 

ジャック・ヒギンズ『鷲は飛び立った』(ハヤカワ文庫NV)

先日読んでめっぽう面白かった『鷲は舞い降りた』の続編。

これまた面白く1日ちょっとで一気に読んでしまった。とはいえ、まぁ二番煎じと言ってしまえば、それまでの本。Amazonのレビューで「作者自身による二次創作」とあったが、言い得て妙である。

たとえば『鷲は舞い降りた』が連載小説だとすると、中盤を過ぎたあたりから「○○さんを死なせるのは許せない!」みたいな剃刀入りのファンレターが届きそうなものだが、そういうファンの声に応えて書かれた続編、みたいな印象である。

本編同様、ナチスドイツ上層部内での対立、ナチスに好意的でないドイツ将官、優れた策略、スリーパーセル的存在、一癖ある「運び屋」など、この手の話を面白くするための必須要素は漏れなく揃っている。第二次世界大戦の推移や展望をきちんと盛り込んでいるところも巧み。

作品としては本編の方がはるかに上なので、その登場人物に魅力を覚えた人以外は、これに手を出す必要はないだろう。ということは、たぶん、本編を読んだ大半の人は読むべき本なのである。

 

津原泰水『ヒッキーヒッキーシェイク』(ハヤカワ文庫JA)

このあたりの作家・作品にはひどく疎いのだけど、例の「事件」をキッカケに名前を知り、それならばと応援の気持ちも込めて、買って読んでみた。

『鷲は舞い降りた』の直後というのはさすがに分が悪すぎたか…とはいえ、同列に論じなければそれはそれで失礼であるという気もするし…。

読後、なぜ心躍らなかったのかをツラツラと考えてみたのだけど、主人公たちが関与する「プロジェクト」があまりにも小粒でせせこましいからだ、という結論に達した。「不気味の谷を越える」には(AI方面への関心がそれなりに強いこともあり)ちょっと期待を高めて読み進めたのだが、その落ち着く先が(と、ここはネタバレ回避のため省略)……では、さすがに拍子抜けしてしまう。まぁチャーチルを誘拐しろとは言わないけど、もう少し大きな志が欲しい気もする(と、結局比較している)。

いや、本来は純文学系の読者で、「大きな物語」のカケラもないような私小説的な作品もむしろ好きなくらいなので、話が小粒という点は必ずしも欠点にはならないのだが……。

とはいえ、さすがに「現代最高の小説家による新たな傑作」という惹句は誇大表現に過ぎるだろう。この手の話を書かせるなら川端裕人の方が緻密かつスケールも大きい気がするし(同い年なんだな)。

あ、とはいえもちろん、ラストで主人公が見上げる夜空に流れ星が走るようなレベルではありません。

 

 

ジャック・ヒギンズ『鷲は舞い降りた』(菊池光・訳、ハヤカワ文庫NV)

会社の後輩が宇宙関係の翻訳をやっていて、「アポロが月に着陸したときの連絡って、”The Eagle has landed.” だったんですね」と言うので、「それって何だっけ。ああ、『鷲は舞い降りた』か」と未読でもタイトルだけはすぐに思い浮かぶくらい有名な作品。NASAがフレーズを小説のタイトルから借用したのなら粋だなと思ったが、アポロの方が先だった。着陸船がEagle号だったのは、アメリカの国鳥だからという理由のようだ。

で、タイトルを知っているわりには何となくご縁がなかったのだけど、ふと興味が湧いて、図書館で借りてみた。

う~ん、有名であるのも当然。

えらく面白かった。これを読むと賢くなるとか、世の中の見方が変わるとか、そういう本ではないけど、エンターテイメントとして上等。

戦争・スパイ・アクション・サスペンス系というジャンルが極端に苦手な人以外には、文句なしにお勧めできる(何を今さら、と言われそうな著名作品ではあるが)。

扉部分の著者の言葉からも、序章(著者ヒギンズが不可解な墓碑銘に出会って、その謎を探り始める)からも、物語の軸になっている「作戦」が何を狙いとしていて、どのような結果に終るのかは分ってしまう。もちろん歴史的な事実から判断して、そのような結果は当然なのだけど、いずれにせよ「冒頭でそれを書いちゃっていいの?」と思うくらい。

それにもかかわらず、その後の展開が実に読ませる。作戦の準備が進んでいく様子も緊迫感があるし、そのような結末につながる決定的な転機も非常に印象的。

そのうえ、死んでいった者たちには教えたくない、不条理などんでん返しも待っている(そこまでやらんでも、という気もするが)。

ううむ。

しかも、この作品が重要な伏線になっている続編『鷲は飛び立った』まであるというではないか(これも図書館で予約してしまった)。

翻訳は菊池光。覚えがある名前だと思ったら、一時期何作か夢中で読んだ(そしてまた読み返したい)「スペンサー」シリーズの訳者。会話の語尾などに違和感がなくはないが、もちろん読ませる。

 

ヤニス・バルファキス『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(関美和・訳、ダイヤモンド社)

仕事上の必要性もあって、読んでみた。日・月と電車での移動時間が長かったせいもあり、2日で読めた。

確かに分かりやすく面白いけど、まぁそのぶん物足りないというか、特に斬新なことが書いてあるわけでもないので、驚きや発見はそれほどなかったかな…。いわゆる経済記事を読むのがあまり苦にならない人は読む必要のない本だと思う。まぁこの手の本は過大評価されがちではある……。

翻訳は悪くない。原文に当たって確認したいところは数カ所あったけど、たぶん原文の方に問題があるのではないかという印象。柔らかく書かれたものを柔らかく訳すことは簡単ではないのだが、これはうまく行っていると思う。ただ、moneyを「おカネ」と訳すのだけは頂けない(これも原文に当たらないと分らないけど、意を汲んで「金利」とすべきだったのでは)。

 

 

江利川春雄『英語と日本軍 知られざる外国語教育史』(NHKブックス)

先日、京都でいくつかの個性的な書店を回ったなかで気になった本。買うまではどうかなぁと思ったので図書館で借りてみた。

旧日本軍(陸軍・海軍)及びその附属教育機関で、どのように外国語が教えられてきたのか、それがどのように戦争をめぐる政策に影響してきたのか、という研究。当初は英国を手本とし、後に米英を仮想敵国としてきた海軍では英語が重視され(理由はそれだけではないとはいえ)、当初は仏・独を手本とし、ロシア~ソ連を仮想敵国としてきた陸軍では仏・独・露語が重視され、軍中枢部にも外国語別の学閥ができて……みたいな興味深い話。結果的に英語の比重が小さくなったせいで、ナチスドイツ過大評価、米英過小評価、という流れにつながった可能性がある、と。

私の父方の祖父は当時それなりの立場にある英語教育者だったはずだが、軍への協力を拒否していろいろ苦労したという話も聞いたが、民間に留まった人の話は残念ながらこの本には出てこない。そういえば伯父は陸軍幼年学校に進んで(祖父には反対されたようだが)、当時習ったロシア語を今でも覚えている、みたいな話を何度か聞いたが、上述のようなロシア語重視の陸軍という背景があったわけだな、と思い至る。