月別アーカイブ: 2016年9月

英国式事件報道 なぜ実名にこだわるのか eBook: 澤 康臣

先日の神奈川県の障がい者施設での殺人事件を機に、放置してあったこの本を読んでみた。何かにつけて匿名化の傾向が強まる日本の報道に比べて、「こんなのあり?」と思えるようなイギリスメディアによる報道。必ずしも「英国式」のほうが優っているという話にならず、揺れ動いているところも面白い。

売春婦連続殺人事件、極右政党や警察への潜入取材、乱痴気パーティの惨事、難破船の宝物略奪……と、第一章で紹介される事件(&その報道)の例が実にカラフルで面白い。

少し前に読んだ安田浩一『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』もそうだったけど、ジャーナリストがジャーナリストに取材するという構図、あるいは、「一つの事件がどのように報道されていくのか」という経緯がよい。そもそものしつらえがメタな構造になっている。

で、この本がジャーナリストではない人間にとっても面白いのは、もちろんニュースを消費するという立場で我々もジャーナリズムの当事者であるからというのはもちろんなんだけど、終盤の「誰もが少しずつ『公人』」という節に的確にまとめられているように、一人一人の社会への関与のありかた、という原理的な部分に触れられているから。それこそ、「投票に行くのか棄権するのか」「デモや集会に参加するのか距離を置くのか」みたいな部分にも関係してくる話である。

オススメです(放置していたけど)。

 

 

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中国環境汚染の政治経済学: 知足 章宏

大気汚染(いわゆるPM2.5)や河川・土壌汚染、CO2排出&気候変動の問題とか。「底辺への競争」くらいは聞いたことがあったけど、「汚染のリレー」とかも興味深い概念。

特有の偏見に満ちた視線で語られることが多い中国の環境汚染だけど、結局のところ、経済の高度成長と、その前提となるグローバリズムという観点を抜きにしては語れない。ということはつまり、自分たちもその「チェーン」には組み込まれている。家に帰って、ペットフードの成分表を確認してしまった。そこに「ビタミンK」と書かれていたら、中国の「癌村」の発生にいくぶんか関与しているかもしれないということ(ちなみに今メインで使っているペットフードには含まれていませんでした…)

 

 

 

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不屈の棋士 (講談社現代新書) : 大川 慎太郎

ちょいとこのへんの情報収集を怠っていたせいもあって、「ソフトウェアのほうがプロ棋士よりも強い」が、今やほぼ定説になってしまっているのだなぁということに今さらのように驚いてしまった。

そんななかで、プロ棋士のあいだでも、あるいはソフトウェア開発のあいだでも、いまだに「羽生は別かも」(ただし「調子がベストだったら」という条件は付くようだが)という意見があるのがすごい。しかし考えてみたら、7冠制覇したりして一番ブイブイ言わせていた時期の羽生について言われていた独特の強さって、前例に囚われずに幅広く手を読むみたいな、今のソフトウェアの強さについて言われていることだったような気もする。そういえば以前Twitterで、「羽生ならソフトウェアに勝てるかもしれないが、羽生を人間の側にカウントしていいのか」みたいなジョークがあった(笑)

ついでにもう一つ驚いたのは、最新バージョンではないにせよ、プロ棋士を負かすレベルのソフトウェアが誰でもフリーでダウンロードできる、ということ。まぁ私なんかが使っても勝負になるはずもないので入手しても仕方ないのだけど。

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精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本 : 大熊 一夫

冒頭で触れられている「宇都宮病院事件」については、大学の頃、一部の学友が問題意識を持って取り組んでいたことを思い出す。

文章は今ひとつ気に入らないのだが、内容は示唆に富んでいる。

果たして、日本は先進国と呼ばれるに値する国なのか。industrialized country ではあるだろうけど、developed countryなのか。どうも違う気がする。

 

 

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沖縄の米軍基地 「県外移設」を考える (集英社新書) 電子書籍: 高橋哲哉

たとえば私が住む東京ならどうか。横田基地などがあるとはいえ、人口比で言えば、もっと在日米軍基地があってもいいはずだ。広い土地はなかなかないが、都心部でいえば皇居くらいか。普天間飛行場代替にするには滑走路の長さが確保できないが、ヘリパッドくらいなら作れるだろう。

東京に次ぐ人口ということなら大阪だろうし、大阪には米軍基地はないらしいから適切だと思うのだが、残念ながら大阪のどのあたりにどれくらいの土地があるのかはよく知らない。

もちろん、土地がなければ「確保」すればいいのだが。

……というような、県外移設論に対する実効的な反論というのは、私にはまったく思いつかないのである。反戦平和的な立場からの県外移設反対論はやっかいだが、これについては本書で丁寧な反論が試みられている。

 

 

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