月別アーカイブ: 2015年1月

イスラーム文化−その根柢にあるもの (岩波文庫): 井筒 俊彦

時節柄、イスラム(国)に関する本はいろいろ出ているし、それらも読もうと思っているのだけど、お世話になっている自転車店の店主が名前を挙げていた著者の本が書店の棚にあったので買ってみました。

講演録で話し言葉ということもあってとっつきやすいし、3回構成の分け方も的確でわかりやすい。昨今の事件について理解する手がかりになるかというと、そういう即効性はもちろんないのだけど(ただしシャルリーエブド襲撃事件については若干参考になります)、地味なようで知的興奮の伴う、味わい深い良書です。

薦めてくれた人が人だけに、なんか、そのお店で購入したクロモリのロードレーサーとイメージがかぶります。すごく突飛な連想のようだけど、つまり、新しいことについては特に参考にならないのだけど、基本はわかる。現時点で新しいものではないけど、今後も古びそうにない。

というわけで、今年イチオシの本です。いや、まだ1月ですけどね。

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「動ける身体」を一瞬で手に入れる本: 中嶋 輝彦

2015年1月10日くらいに読了(実はこういう本もけっこう好き・笑)。

表題には「動ける身体を一瞬で手に入れる」とあるが、むしろ「一瞬で動ける身体」を手に入れる、とするべきではないかと思う。この本が主張するメソッドには確かに一回やるにはさほど時間はかからないけど、それなりの期間、蓄積していく必要はあるみたいだし、そもそも、「チーターなどの野生動物はストレッチも準備運動もなしに、即座に最高速度で行動できるのに、なぜ人間にはそれができないのか」みたいな疑問から始まっている本なので、「一瞬で手に入れる」というより「一瞬で動ける」に比重を置くべきではないかと。

ところでこの「チーターなどの野生動物は……」とかいう話はときどき目にするのだけど、けっこう的外れではないかと思う。「それでも肉離れを起こしたチーターなんて見たことがありません」みたいな感じで続くのだけど、いや、それ分かりませんから。肉離れを起こしたチーターも実はいるのだけど、そういう個体は獲物を捕れずに飢えて死んでしまったのだろうし、同じく一瞬で最高速度で逃げるであろうシマウマのなかでも、たまたまストレッチに不熱心で肉離れを起こしちゃった個体が捕まって食べられてしまうのかもしれない。藪に潜んで獲物を待つチーターや、佇んで草を食むシマウマは、一見動いていないように見えて、実は念入りにストレッチをしているのかもしれない。

と、つい下らないツッコミを入れてしまうのだけど、それはそれとして、この本が推奨するメソッドはなかなか面白く気持ちが良いのでお勧めです。

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緋色の研究 (新潮文庫): コナン ドイル, 延原 謙

2015年1月22日読了。

BBS制作のドラマ『シャーロック』の第1話を観たので、原作を読んでみた。ホームズものはたぶん子ども向けにリライトされたものをいくつか読んでいるとは思うのだけど、それも含めても、この作品は初めてかも。

ドラマの方は原作の主要な要素を活かしつつもまるっきり別の話に仕立ててあるのだけど(設定が完全に現代なのだからそれも無理はないが)、その換骨奪胎の作業をけっこううまくやっていたという印象。原作に対する「愛」や「敬意」はしっかりある。

どうしようかなぁ。ドラマの続きを観て、その原作に当たる、という順番にしていこうか。

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新南島風土記 岩波現代文庫―新川 明

2015年1月20日読了。

先日読んだ『これが沖縄の生きる道』で言及されていて気になった本。というか、曲がりなりにも八重山民謡をかじっている立場としては、もっと早くに読んでおかなきゃダメだな。図書館で借りたけど、これは購入決定。いずれまた読み返すので。

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「あの日」からぼくが考えている「正しさ」について: 高橋 源一郎

確か2015年1月11日くらいに読了。

「あの日」、つまり2011年3月11日とそれ以降しばらくのあいだに、著者がTwitterに投稿したツイートと、通常の媒体に発表した文章の抄録。

私もときどき、事態がどのように進展するか分からなかった当時のツイートなどを読み返すことがある。ああいう時期には、わりとその人の本質が現れるものなのかもしれない。過去に書いたものはたいてい何かしら恥ずかしいものだけど、当時のツイートは、「ああ、オレならこう書くよなぁ」と思えるものばかりのような気がする。

この本に収録された著者のツイートから察せられるのは、「この人は優しい人なんだな」ということ。

え、じゃあ私の当時のツイートからは何が察せられるのかって?

それはヒミツです。

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ニッポンの小説―百年の孤独 (ちくま文庫): 高橋 源一郎

2015年1月7日読了。

同じ筆者の『「あの戦争」から「この戦争」へ』が出版されたのだけど、「ニッポンの小説」シリーズの3作目という位置付けのようなので、先にこれを読むことにした。読むのがしんどい、突き詰めた「ニッポンの小説」論。本文中での引用に作品名・作家名が付されておらず、巻末の参考文献を見るしかないのだけど、敢えてそういう情報による先入観を持たずに読め、ということなのだろうな。小説を楽しむ人(読み書き問わず?)にとって読む価値のある本だと思うけど、読むのはしんどいです。

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2014年に読んだ本

2014年の読書メーター
読んだ本の数:68冊
読んだページ数:19699ページ
ナイス数:238ナイス

これが沖縄の生きる道これが沖縄の生きる道感想
随所に興味深い論点がある良い本だとは思うけど、少なくとも(と言うにはあまりにも大きすぎるのだが)在沖米軍基地の問題に関しては、この本は全然ダメだと思う。というのも、問題は「なぜ沖縄に米軍基地が集中しているのか」、あるいは「沖縄の米軍基地を減らしていくためにはどうすればいいのか」というところにあるのではなく、「なぜ本土にはもっと米軍基地がないのか」、ひいては「なぜ本土は日米安保をまっとうに担えないのか」という点にあるからだと思うからだ。在沖米軍基地の問題は沖縄の問題ではなく、本土の問題である。
読了日:12月28日 著者:宮台真司,仲村清司
タンゴ・冬の終わりにタンゴ・冬の終わりに感想
鴻上尚史さんのツイートを契機に、懐かしい戯曲を読む。期待どおり、懐かしかった(^^) 結論としては、鴻上さんが探していた台詞はこの戯曲に出てくるものではなかったのだけど。
読了日:12月14日 著者:清水邦夫
黄金の服 (小学館文庫)黄金の服 (小学館文庫)
読了日:12月11日 著者:佐藤泰志
そこのみにて光輝く (河出文庫)そこのみにて光輝く (河出文庫)感想
この作家の小説なら大外しはなかろうという信頼感のようなものが生まれてきている。文体が好きなんだろうな。
読了日:12月4日 著者:佐藤泰志
きみの鳥はうたえる (河出文庫)きみの鳥はうたえる (河出文庫)感想
しばらく前に『海炭市叙景』を読んでなかなか悪くないと思ったのだが、ふとしたキッカケから、他の作品も読もうと思い、まずはこれを。村上春樹・村上龍より後の作家かと思っていたが、完全に同世代だった。収録2作は本格派青春小説とでも言うべきか。嫌いじゃない。引き続き、『そこのみにて光輝く』(1989年)へ。
読了日:11月28日 著者:佐藤泰志
ユダヤとイスラエルのあいだ―民族/国民のアポリアユダヤとイスラエルのあいだ―民族/国民のアポリア感想
いやぁ、面白かったです。やや現代思想系なので誰にでもお勧めというわけにはいかないけど、国家/国民/民族ってのは考えれば考えるほど難しい問題なのだなぁということがよく分かる。世界を代表するような知性が「ユダヤ人」のなかから輩出するという伝統は、イスラエル建国によって終わるのかもしれない、とも思える。著者が序章でのみ触れている、「日本/日本人」をめぐる問題意識という点でももちろん面白い。
読了日:11月19日 著者:早尾貴紀
NOヘイト!  出版の製造者責任を考えるNOヘイト! 出版の製造者責任を考える感想
「統計的な意味はない」と主催者は断っているが、第2章「書店員は『ヘイト本』をどう見ているか」に並ぶ書店関係者からの回答はじっくり読むに値する。神原元氏の「表現の自由と出版関係者の責任」はやや期待外れだった。「表現の自由」とヘイトスピーチ規制の関係については、むしろ、「あとがきにかえて」の「おわりに」の一節(表現の自由は何のためなのかという問いかけ)の方が参考になるように思う。いずれにせよ、ボリューム的にはあっというまに読める本ではあるものの、必読と言ってよさそう。
読了日:11月6日 著者:加藤直樹,明戸隆浩,神原元
陰謀史観 (新潮新書)陰謀史観 (新潮新書)感想
ややまとまりに欠ける印象はあるが、面白かった。「陰謀史観」のほとんどは、一般的に語られる歴史よりもはるかにシンプルであることが分かる。でも陰謀論者はそれを自覚してはいないのだろうなぁ。陰謀史観の方が、シンプルな分だけ知的負荷が少ない。要するにバカっぽいってことなんだけど。
読了日:10月22日 著者:秦郁彦
熱狂なきファシズム: ニッポンの無関心を観察する熱狂なきファシズム: ニッポンの無関心を観察する感想
著者が抱いている危機感はすべて私自身も共有するものなのだが、それはさておき(?)、「観察映画」に関する部分がとにかく面白い。と言いつつ、その時間の長さに恐れをなして、まだ著者の作品は一本も観ていないのだけど。「反演劇的演劇」に関する考察については、ほぼ逆の観点(従来の演劇においては観客こそが「拘束された不自由なもの」だったのではないか)から卒論を書いた四半世紀前を思い出す。
読了日:10月16日 著者:想田和弘
地球最後の日 (創元SF文庫)地球最後の日 (創元SF文庫)感想
というわけで、こちらが原作。子ども向けにない男女の恋愛/葛藤も、血なまぐさい戦闘もあり。自然科学的にも技術的にも「そりゃないよ」と思わせるところが、執筆当時(1930年代初頭?)に何が分かっていて何が分かっていなかったのか、という点を感じさせて興味深い。たとえば、原子力発電はもちろん原子爆弾さえまだ存在しない時期の作品だが、地球脱出のためのロケットの原動力が「原子力」になっている。もちろん放射能の問題は意識さえされておらず、多分に「夢のエネルギー」でしかないのだけど。
読了日:10月13日 著者:フィリップワイリー,エドウィンバーマー
地球さいごの日 (講談社青い鳥文庫 (74‐1))地球さいごの日 (講談社青い鳥文庫 (74‐1))感想
子ども向け版の『海底二万里』(ジュール・ヴェルヌ)などを除けば、たぶん最初に読んだ本格的(?)なSFがこの作品だと思う。もちろん読んだのはこのバージョン。図書館で借りて再読してみたら、え~、これはかなり子ども向けに翻案してあるんじゃないの、と思い、同時に借りた原作の翻訳を読んでみたら…破滅の状況だけは同じだけど、主人公は少年少女になっているし、「設定は同じだけどかなり違う話」だった(笑)
読了日:10月13日 著者:フィリップ=ワイリー
近くて遠いこの身体近くて遠いこの身体感想
体育が嫌いだったけど、今はなぜかよく身体を動かすようになり、しかも日本のラグビーファンである自分のために書かれたような本。巻を措く能わず。パワーアップをかなり重視している今の日本代表の強化方針に対して著者がたぶん批判的な意見を持っているのは本書の内容から明らかだけど、そういう話は直接には出てこない。読了して「ああ、結局のところ、これは『日本代表がNZ代表に勝つにはどうすればいいのか』という本なのかなぁ」と感じてしまい、胸が熱くなる。あ、といっても必ずしも「ラグビーの本」ではありません。
読了日:10月12日 著者:平尾剛
佐藤優の沖縄評論 (光文社知恵の森文庫)佐藤優の沖縄評論 (光文社知恵の森文庫)感想
鳩山政権期の「辺野古移設」を巡るせめぎ合いのなかで、本書にまとめられた連載コラムの緊張感が増していくようすが、結果の分かっている今日読むと痛切。「沖縄は地域エゴに徹すればいい」というのはまさしく正論。著者の言うとおり、基地移設先の対案など出す必要は皆無なのだ。
読了日:10月9日 著者:佐藤優
二十三の戦争短編集 (文春文庫)二十三の戦争短編集 (文春文庫)感想
最初の数編が戦場・戦犯収容刑務所を舞台とした短編小説で、後は帰国後~今日(最新で20世紀末)の時期に、かつての「戦友」「ムショ友」との交際記的なエッセイ(私小説と言えば言えるかもしれないが)という構成。「弱兵」として1人も殺さず、大きな負傷もなく帰還した著者は大きな悲劇を描くわけではない。しかしそこには重く苦い不条理がある。「同じ話ばかり書いている」という批判もあるようだが、なぜ著者がそのようにしているかは収録の「退散じゃ」というエッセイに明示されているので注意したい。
読了日:10月6日 著者:古山高麗雄
鉄道で広がる自転車の旅 「輪行」のススメ (平凡社新書)鉄道で広がる自転車の旅 「輪行」のススメ (平凡社新書)感想
「乗り鉄」でも「撮り鉄」でもないしなぁ…とあまり期待せずに読み始めたのだけど、かなり面白かった&影響されそう。魅力を感じたのは寝台特急「サンライズ瀬戸」で東京を夜に発って高松に朝到着し、しまなみ海道を80kmだか自走して本州に戻り、新幹線など乗り継いで帰ってくる「夜行日帰り」、それと調布空港発着での大島日帰り。まぁどちらもせめて1泊した方が美味しいもの&お酒を楽しめるのだけど、日帰りできてしまうんだぁというのが新鮮。紙の時刻表を久しぶりに開きたくなった。
読了日:9月24日 著者:田村浩
天空の蜂 (講談社文庫)天空の蜂 (講談社文庫)感想
恐らく発表された当時は、最後の数頁の「犯人からの最後のメッセージ」に書かれていることは「はぁ? 何それ?」と唐突な印象を与えたのではないか。しかし「3.11後」を生きる者にとっては、「あ、やはり『それ』が重要なのね」と痛切に思い知らされる。地震とか津波とかそういう話ではなくて、原発で盲点になりやすい脆弱な部分は何か、という点。もちろん筆者は専門家などに取材してそれを知ったのだろうけど、それを作品に活かしたのは見事。ただし繰り返しておくが、発表当時はその点はよく理解されなかったのではないかと思う。
読了日:9月22日 著者:東野圭吾
海炭市叙景 (小学館文庫)海炭市叙景 (小学館文庫)感想
私が長編小説を好むのは、小説の世界がだんだん自分に馴染んできて、少し登場頻度の落ちた誰かについて、電車の車中などでふと「そういえば彼は今どうしているんだっけ」などと現実と区別なく思い出してしまうようになる感覚が好きだからなのだけど、短編連作の形を取った本作でも、それと似たような感覚を味わえる。未完の遺作となってしまったのは残念だが、妙な話だけど、「それでもいい」作品と言えるかもしれない。
読了日:9月11日 著者:佐藤泰志
自転車で1日500km走る技術自転車で1日500km走る技術感想
前半は、まず100kmを目標に、自転車の選び方やコース設定、GPSや輪行のノウハウなど。後半はブルベの話。著者の編集する雑誌やブログを読んでいるので、すでに知っている話もけっこう多いという印象。200kmのブルベは辛うじてとはいえ一度完走したので、未知の世界は最終章のみ。しかしこうなると(?)、やはり来年は300に挑戦かなぁという気になってくる……。
読了日:9月9日 著者:田村浩
肉体の悪魔・失われた男 (講談社文芸文庫)肉体の悪魔・失われた男 (講談社文芸文庫)感想
従軍慰安婦問題に関連して高橋源一郎がこの作家に触れていたので読んでみた。これらの作品に描かれた兵士や慰安婦が置かれた状況は酷いとしか言えないのだが、かといって、そうした状況を告発するという作風でもない。印象深い。古山高麗雄も読んでみよう。http://www.asahi.com/articles/DA3S11320312.html
読了日:9月4日 著者:田村泰次郎
一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教 (集英社新書)一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教 (集英社新書)感想
先日の『中東から世界が見える』と合わせて読むとなかなか面白い。
読了日:9月2日 著者:内田樹,中田考
ゴドーを待ちながら (白水Uブックス)ゴドーを待ちながら (白水Uブックス)感想
さまざまな読み・解釈を許す作品なのだろうけど、読後、まず感じた印象は悲劇性ということだった。とても悲しい話である。
読了日:8月30日 著者:サミュエルベケット
女子マネージャーの誕生とメディア―スポーツ文化におけるジェンダー形成女子マネージャーの誕生とメディア―スポーツ文化におけるジェンダー形成感想
これはお勧めです。扱っている資料が少なすぎてちょっと危うい感じもあるけど、面白い。女子マネージャー増加の背景に受験戦争の激化がある、とかいうのも目から鱗でした。真面目な論考だけど、特に難解な概念が出てくるわけでもないし、非常に読みやすいです。女子マネージャーという存在がジェンダー意識「から」生じているわけではないが、無意識的にせよ、結果としてジェンダー意識を強化している、という分析はけっこう的を射ているように思います。
読了日:8月29日 著者:高井昌吏
指数・対数のはなし指数・対数のはなし感想
雑談的な部分だけすごい勢いで読んで、一応読了したことにしておきます。数式とか出てくるちゃんとしたお勉強部分は、かなりトバして書いているようなので理解できず。たぶん、「指数・対数はいちおう高校でやって公式とかは理解しているんだけど、何が面白いのか分からない」という人が対象なのだと思う。もとが数学専門誌がベースのようだし。後書き的な部分を読むと、まぁ私のような読み方でもいいのかもしれない。最初の部分の、対数を手計算でおおざっぱに把握してみる、という部分は良かった。
読了日:8月25日 著者:森毅
素数の音楽 (新潮文庫)素数の音楽 (新潮文庫)感想
ようやく読了。調和級数が無限に拡散する、の部分で引っかかったけど、ネットで調べてその証明に納得してからは、わりとスムーズに進んだ。しかし結局のところ、リーマン予想なるものが何を意味しているのかは理解していない。まぁそれでも数学者の苦労や活躍は伝わってくるから、十分に楽しめる本だった。それにしても、数論の最先端と量子物理学の最先端が一致してくるというのは不思議なようにも思えるが、結局のところ、人間が鏡を覗き込んでいるのだから当然かも、という気がするのは私が哲学科出身だからなのだろう。
読了日:8月24日 著者:マーカスデュ・ソートイ
日本女子大学生の世の中ウオッチ日本女子大学生の世の中ウオッチ感想
著者と同じくらいの年代に自分がこれほどモノを考えていたかというと……いや考えていたには違いないのだが、やはりブログどころかインターネットさえ普及していなかった時代ゆえか、こうして文章で表現するということはなかったよなぁと思う。それにしても、あちこちで軋轢を生み敬遠されるであろう著者の姿勢は、さぞかし生きづらいだろうなと思うのだけど、それでも「この人は大丈夫」(?)と思えるのは、彼女のベースが、揺るがない「正しさ」ではなく、むしろ、主流とは異なる考え方を面白がる「好奇心」にあるように見えるからだろう。
読了日:8月12日 著者:是恒香琳
ハンドブック 集団的自衛権 (岩波ブックレット)ハンドブック 集団的自衛権 (岩波ブックレット)感想
まぁ基本的な文献ではあるけど、今の時代意識からするとちょっと淡々としすぎている感がある。いや、まぁもっと煽れとかそういう意味ではないですが。
読了日:8月11日 著者:浦田一郎,前田哲男,半田滋
101年目の孤独――希望の場所を求めて101年目の孤独――希望の場所を求めて感想
これは良書。軽い内容ではないけどぐいぐい読めた。確かに今の日本は滅びつつあるのかもしれないけど(現状は維持できないという意味で)、それでも副題にあるような「希望の場所」は残せるのかなぁと救われる気持ちになる。もっともそういうのは、過去に栄えて衰えていった国ならば、すでに当たり前の現実なのかもしれないけど。
読了日:8月6日 著者:高橋源一郎
ショージ君の「さあ!なにを食おうかな」 (文春文庫 177-7)ショージ君の「さあ!なにを食おうかな」 (文春文庫 177-7)感想
「駒形どぜう」の回が読みたくて図書館で借りたのけど、その回はもちろんたいへん懐かしく面白かったのだが、それ以外の回は今ひとつ。面白くはあるのだけど、あまり「美味しそう」に書かれていないのだよね。食べることを楽しむという感じが実はあまりない。その意味で「どぜう」の回は例外的と言ってもいいくらい「美味しさ」が強調されているように思う。
読了日:8月4日 著者:東海林さだお
FUKUSHIMA nuclear village〜原発村の一年半FUKUSHIMA nuclear village〜原発村の一年半
読了日:8月1日 著者:稲葉孝之
中東から世界が見える――イラク戦争から「アラブの春」へ (岩波ジュニア新書 〈知の航海〉シリーズ)中東から世界が見える――イラク戦争から「アラブの春」へ (岩波ジュニア新書 〈知の航海〉シリーズ)感想
岩波「ジュニア」新書だが、たいていの「大人」にとっては読む意味があるだろう。平易に書かれているし、ニュースをそれなりに追っている人なら知っている内容が多いが、それでもなるほどと唸らされる洞察がある。いろいろ社会的な「動き」を思う場合、中東の話というだけでなく、日本の「今」を考えるうえでも他人事ではない部分が多いのだよね。
読了日:7月30日 著者:酒井啓子
検証 官邸のイラク戦争――元防衛官僚による批判と自省検証 官邸のイラク戦争――元防衛官僚による批判と自省感想
実に地味な検証。これまで公開されていなかったような内幕が暴露されるのではないかという期待は裏切られる。でもこういう地味だけど丁寧な回顧が必要なのだろうな、という気がする。それにしても、あの当時の「歯止め」に比べて、今の安倍政権の集団的自衛権の論理がどれほど危ないものかを痛感する。
読了日:7月26日 著者:柳澤協二
大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)感想
本書のなかで指摘されている(米国による指摘への言及も含め)大日本帝国陸・海軍の情報体制の諸々の欠陥が、もし克服されていたとしたら…負けるにしてももう少しマシな負け方になったろうし、人命の損失もはるかに少なくて済んだだろうが、しかしそれ以前に、そもそも戦争になど踏み切れなかっただろう。「これまでとは違う動きをする奇妙なB29部隊」の部分は結論が分かっているだけに読んでいて辛い……。
読了日:7月16日 著者:堀栄三
英文翻訳術 (ちくま学芸文庫)英文翻訳術 (ちくま学芸文庫)感想
ほぼどの項目も、これまでの翻訳の実務のなかで自分で使ってきたような技術ではあるので特に新たな発見はなかったのだけど、改めて体系的に見直せたのは有益だった。これから翻訳をやりたいという人は是非読んでおくべき一冊だと思う。あとがきの、演劇に触れた部分もなかなか面白かった。
読了日:7月12日 著者:安西徹雄
敗北のない競技:僕の見たサイクルロードレース敗北のない競技:僕の見たサイクルロードレース感想
なんとも生々しい……。直接体験してきた、あるいはそれに近い人にしか書けない内容であることはもちろんなのだけど、同じように本場のレースを体験している日本人選手ならば同じように書くかというと、それはまた違う気がする。到達した高みは同じでも、そこに至るまでの土井雪広ならではの過程が、この内容に反映されているような気がする。
読了日:6月26日 著者:土井雪広
ヤマザキパンはなぜカビないか―誰も書かない食品&添加物の秘密ヤマザキパンはなぜカビないか―誰も書かない食品&添加物の秘密感想
家人は「コンビニ弁当を食べると特に塩辛いわけでもないのにやたらに喉が渇く」と言う。「添加物とかいろいろ入っているから、身体としても薄めて排出したくて水を求めるんじゃないの」などと言い合っていた。もちろんこれは、少しも科学的ではない、個人的な印象にすぎない。そうした印象を、ではこの本が裏付けてくれるかというと、残念ながら期待外れ。というか、我々と五十歩百歩の印象論にすぎず、かえってマイナスが大きいのではないかという気がする。食品添加物の危険性について考えるならば、たぶんもう少しいい本がありそうだ。
読了日:6月25日 著者:渡辺雄二
誰も戦争を教えてくれなかった誰も戦争を教えてくれなかった感想
全体としてとても面白いのだけど、あいかわらずの饒舌で、読んでいるうちにだんだん疲れてくる……。あと、『絶望の国の幸福な若者たち』にも感じたことなのだけど、基本的に現状を越えていくベクトルがなく、傍観者として「生暖かく見守る」スタンスに落ち着いてしまうのが残念。自分たちは「いま、ここ」にいるという意識が鮮明なわりには当事者意識が薄いように思えてしまう。
読了日:6月23日 著者:古市憲寿
非武装国民抵抗の思想 (岩波新書)非武装国民抵抗の思想 (岩波新書)感想
『平和主義とは何か』で言及されていて気になったので読んでみた。40年くらい前の本で、東西冷戦&人類滅亡的な核戦争が問題意識の背後にあるので、今日とは少しズレているのだけど、それでもなお「これ今の問題じゃないか!」と思うところが多々あった。いま私たちがやっている行動は「非武装国民抵抗」のトレーニングでもあるのだなというのが印象的。この本は買っておきたいが絶版か……。
読了日:6月15日 著者:宮田光雄
ロボット・カミイ (福音館創作童話シリーズ)ロボット・カミイ (福音館創作童話シリーズ)感想
古田足日さんが亡くなられて、いくつか作品を読んだはずだなぁと調べたところ、これをよく覚えているので図書館で借りて読んでみた。傑作。
読了日:6月10日 著者:古田足日
クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)感想
「スゴ本」ブログで激賞されていたので読んでみたのだけど落胆。これはひどい。真犯人を知っている者が職業上の守秘特権ゆえに何も言わない、という設定はまぁいいとして、単に捜査陣の連携のまずさゆえに事件の解決が遅れているだけなのに、そこにフォーカスしているわけでもない。鍵となりそうな少年から得られる情報も読者にとっては既知のものだけで肩透かし。そもそも、主要登場人物の一人が亡霊(というか、別の主要登場人物の妄想の産物)って、陳腐な蛇足にすぎない。ミステリだと思って読んではダメで、お涙頂戴のファンタジーなのか。
読了日:6月5日 著者:キャロルオコンネル
これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)感想
大学教養課程くらいを対象に良くまとめられた本、という印象。著者としてはすでに結論を出していて大所高所から俯瞰した構成なので、葛藤や切迫感を伴う知的興奮はあまり感じられない。
読了日:5月28日 著者:マイケルサンデル
キアズマキアズマ感想
この著者ならではのサイクルロードレース小説なのだけど、ちょっといろいろ設定に無理を感じる……。車重50kgのTOMOSに乗っていたって、それで自走で登坂するわけではあるまいし、別に脚力つかないだろう、とか(笑)
読了日:5月24日 著者:近藤史恵
街場のマンガ論 (小学館文庫)街場のマンガ論 (小学館文庫)感想
少年マンガと少女マンガを両刀遣いで読める読者は、ウチダ先生が想定しているよりもけっこう多いのではないかと思う。私もその一人だが。しかしウチダ先生の本はわりとよく文庫になるので、文庫になってから買った方が「おまけ」が付いていてよいなぁ。
読了日:5月17日 著者:内田樹
平和主義とは何か - 政治哲学で考える戦争と平和 (中公新書)平和主義とは何か – 政治哲学で考える戦争と平和 (中公新書)感想
平和主義の二つの原理(義務論、帰結主義)×非平和主義の三つの類型(正戦論、現実主義、人道介入主義)、という構成でよく整理された本。ただし緻密なだけに、先を急がずに順を追って読んでいかないとかえって混乱するかもしれない。改憲/護憲や集団的自衛権について賛否いずれの立場で論じるにせよ、「相手の論点を知る」という意味で読んでおいて損はないと思う。ところで、戦争と平和という本書のテーマとはかなりズレるのだけど、本書を読みながら、「矛盾している」と「正しくない」はイコールなのか、という問いが頭から離れなくなった。
読了日:5月13日 著者:松元雅和
再生可能エネルギーの真実再生可能エネルギーの真実感想
読むのに時間はかかったが大変面白かった(ただしFITの水準設定あたりの話は退屈。大切なんだろうけど)。原子力というのは20世紀的・昭和的なエネルギーだなぁとつくづく思う。いろいろな意味で筋が悪すぎる。しかしこの本の執筆の時点で日本はすでに周回遅れなのに、安倍政権になってさらに2周くらい抜かされそうだ。再生可能エネルギー=太陽光=コストが高くてダメとか、ドイツの脱原発=再エネシフトは失敗しつつあるとか思っている人はこの本を読むと少しは蒙が啓かれるのではないかと思う。
読了日:5月8日 著者:山家公雄
月食の日月食の日感想
表題作『月食の日』は、丁寧な取材に裏付けられた作品なのだろうなぁと感じさせられる。切り口も雰囲気も嫌いでないだけに、もう少したっぷり書いてほしかった。物足りない。同じことは『たそがれ刻はにぎやかに』についても言える。この「読書メーター」のユーザー評を見ると「読みにくい」というものが目につくけど、これくらいの趣向についていけないようでは、という気もするのだが……。
読了日:4月28日 著者:木村紅美
冷泉家 八〇〇年の「守る力」 (集英社新書)冷泉家 八〇〇年の「守る力」 (集英社新書)感想
よい機会を得たので、前回からさほど間隔を置かずに再読。「紅旗征戎はわがことにあらず」という言葉を、つい時勢に引きつけて考えてしまいたくなる今日この頃。
読了日:4月28日 著者:冷泉貴実子
サヴァイヴサヴァイヴ感想
『サクリファイス』で脇役だった伊庭(彼は準主役か)、赤城といった選手が主人公になっている短編が読めるのはなかなか楽しい。外伝みたいな感じ。しかし、ギアをインナーに入れるのが「足に余裕がある」兆候なのだろうか、アタックをかけるときに「インナーに入れて、ペダルに力を込める」のか、という疑問は残ったけど、そういうものなの?
読了日:4月24日 著者:近藤史恵
世界ラグビー基礎知識世界ラグビー基礎知識感想
刊行当初に読んだと思うのだが、義父からラグビー関係の質問を受けたのを機に再読。2003年の本なので情報自体は古いものもあるのだけど、以前より日本代表戦や海外ラグビーの試合を観る機会が増えているので、かえって面白く読めた。まぁJ Sportsのラグビー中継でも著者の解説には昔話が混ざることも多いし。著者自身が力点を置いていない、さらっと触れているだけの記述が妙に気になったりする。香港のラグビーの端緒はスコットランドだ、とか。
読了日:4月21日 著者:小林深緑郎
「伝統・文化」のタネあかし「伝統・文化」のタネあかし感想
保守的な向きの言う日本の「伝統・文化」が、実際のところは政治的な思惑で構築された物語であって……という流れは、もともとリベラルを志向する身としては特に新鮮でもない。とはいえ、白菜が日本に根付いたのは意外に新しく明治以降とか、「喪服は黒」はいつからか、みたいなちょっとした話が面白い。あとがきでも自省されているようにもっと充実させてもらいたい分野もあるし、1項目見開きで収めるために各項目で活字の大きさが違うという編集には疑問があるのだけど。
読了日:4月15日 著者:千本秀樹,林公一,田中恵,長谷川孝
42.195kmの科学  マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」 (角川oneテーマ21)42.195kmの科学 マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」 (角川oneテーマ21)感想
ブルベの後遺症でまだマラソンに向けた練習ができないので、代わりにマラソンの本を読む(笑) ここで紹介されているケニアやエチオピアのトップランナーたちはいずれも素晴らしい身体能力の持ち主であって、しかも類を見ない努力を重ねているわけだが、その裏に何か肉体的にも精神的にも(というか社会的にも、か)痛々しいものを感じてしまうのは、単にいま私の脚が痛んでいるからではないと思う…。
読了日:4月9日 著者:NHKスペシャル取材班
島の夜島の夜感想
沖縄(宮古・八重山)を舞台にした作品には、時として、その土地を単に「消費」(「搾取」と言ってもいいかもしれない)しているだけとしか思えないものもあるのだけど、これにはそういうものを感じなかった。終盤、短い場面だが父親との会話がよい。しかし、やはり「月ぬ真昼間」なのかぁ。まぁあの唄にインスパイアされない書き手の方が珍しいのかもしれないが。凄い歌詞だからね……。
読了日:4月8日 著者:木村紅美
風化する女風化する女感想
以前の三線仲間のデビュー作。家人の親戚つながりでまたご縁ができそうだったので読んでみたのだけど、標題の新人賞受賞作はそういえば受賞当時に読んでいたのを途中で思いだした。やや登場人物が類型的な感じがなくはないけど、こういう文体は嫌いではない。
読了日:4月2日 著者:木村紅美
空の拳空の拳感想
新聞で続編の連載が始まったのでこちらも読んでみた。サイクルロードレースにおける『サクリファイス』同様、ボクシング観戦の入口として優れているのかもしれない。かもしれない、というのはボクシングの生観戦経験が一回しかないから私にはよく分からないからなのだけど。昔やはり新聞小説で読んだ沢木耕太郎『一瞬の夏』を再読したくなったな。再読と言っても、連載当時は途中から読んだだけだったかもしれない……。
読了日:3月29日 著者:角田光代
日本軍と日本兵 米軍報告書は語る (講談社現代新書)日本軍と日本兵 米軍報告書は語る (講談社現代新書)感想
「敵」から見た自国という視点そのものが良い。日本陸軍は言われているほど狂信的だったわけではなく、学習も重ねていたし、それなりに「合理的」だったのではないか、という検証。ただしその限定的な範囲での合理性はおぞましいものではあったのだが。なお些細なことだが、本文中で、収録されている図版などに言及する際にページ番号が2ページずれている(「p185の図を参照」と書いてあるときは実際にはp187など)。増刷の段階で修正できるのかな?
読了日:3月26日 著者:一ノ瀬俊也
偽原始人 (新潮文庫)偽原始人 (新潮文庫)感想
たぶん小学生の頃に朝日新聞で連載していた。生まれて初めて読んだ新聞小説だったと思う。小学生(たち)が主人公なので取っつきやすかったというのが大きいのだけど、40年近くを経て読み直すと、けっこう深刻な設定の小説であることに気づく。
読了日:3月21日 著者:井上ひさし
パンデミックとたたかう (岩波新書)パンデミックとたたかう (岩波新書)感想
想像力、というのはいかにも市場原理には馴染まない言葉だよなぁ、と思う。
読了日:3月19日 著者:押谷仁,瀬名秀明
魔の山〈下〉 (岩波文庫)魔の山〈下〉 (岩波文庫)感想
ようやく読了。『戦争と平和』などよりはるかに長く感じた。「喜劇的・風刺的」に描いているという受け止め方は正しかったようだ。終わり方はいくぶん唐突で(何しろ最後の節のの標題が「青天の霹靂」なのだから)、「そういう結末しかなかったのか?」と思わざるをえないという意味で、切ない。う~ん、名作だとは思うけど、無駄に長い気がする。そして何しろ翻訳がよくない。あえて読むなら新潮文庫版なのか。
読了日:3月14日 著者:トーマス・マン
魔の山〈上〉 (岩波文庫)魔の山〈上〉 (岩波文庫)感想
登場人物の言動やお互いの観念的(と思える)内容の対話を、著者が「滑稽なもの」として描写しているのだとつい思ってしまうのだけど、いや、実はそんなことはないのだと気づいて複雑な思いに囚われる。大学生までくらいの時期に読んでいれば、印象も変わったのかもしれないが……。それにしても、翻訳が良くない。新潮文庫版の方が良かったのかな(時期はそれほど変わらないはずなのだが)。
読了日:2月25日 著者:トーマスマン
ホビットの冒険 オリジナル版ホビットの冒険 オリジナル版感想
『指輪物語』は高校生の頃から何度か繰り返して通読しているが、本作はたぶん一回しか読んでいなかったと思う。映画の第二部公開を前に再読。「子供向け」ゆえ、内容はだいたい覚えていると思っていたけど、全然そんなことなかった。さすがにその後の『指輪物語』『シルマリルの物語』に比べると深みに欠けるが、後二作との関連を強調しつつ「大人版」を映像で作ってくれているのがピーター・ジャクソン、ということなのだろう。
読了日:2月13日 著者:J.R.R.トールキン
自転車ツーキニストの憂鬱自転車ツーキニストの憂鬱感想
『中央線の秋』を読みたくなって、図書館で借り出し(まぁ←はウェブでも読めるのだけど)。10年前の本だが、けっこう時代は流れているのだなぁと痛感。自転車テーマの話はもちろん良いのだけど(まだLEDライトは一般的ではなかったのか、とか)、テレビ業界の実情に触れた部分が興味深い。これまた、だいぶ時代は変わっているのかもしれないが。それにしても著者プロフィールの写真が歩道走行中なのはちょっといただけないなぁ。
読了日:2月8日 著者:疋田智
希望社会の実現希望社会の実現感想
確固たる信念というか、社会観とでもいうべきものを持った人という印象。象徴的なのは「世の中の八割、九割の人が幸福であっても、残り二割、一割の不幸な人がいるのでは、健全な社会とはいえない。」(P57)という断定。これに賛同できない人も多いのではないかと思う。「八割九割幸福ならいいではないか」という人もいれば「五割幸福なら五割不幸が健全」というゼロサム思考の人もいるだろう。しかし、こういう社会観がなければ、著者のような行動を取る人は恐らくいなくなる。そして、著者のような人は社会にどうしても必要だろうと私は思う。
読了日:2月6日 著者:宇都宮健児
素粒子論はなぜわかりにくいのか (知の扉)素粒子論はなぜわかりにくいのか (知の扉)感想
いやぁ、これは分かりやすく大変面白かった。なぜ分かりやすいのだろうと考えるに、これまでいくつかこの分野の本を読んだ経験からすると、いずれも「途中から」分からなくなったのだけど、この本はその「分からなくなるところ」を出発点に据えているからではないかと思う。その分岐点を大前提としてしまって、そこから遡ったり前進したりする方が話は見えやすくなる、ということではないか。その基本となる出発点とは「素粒子は粒子ではない」という、ただそれだけのことなのだが。
読了日:2月3日 著者:吉田伸夫
虚数がよくわかる―“ありもしない”のに,難問解決に不可欠な数 (Newton別冊)虚数がよくわかる―“ありもしない”のに,難問解決に不可欠な数 (Newton別冊)感想
「こことここを関連づければ、もっと分かりやすいのに」と思うような部分もあったけど、基本的にはよい本のような気がする。しかしこれを読むと、ああ三角関数や対数なんかももう少しちゃんと勉強しないといかんなぁと言う気がしてくる。それと同時に、理系に進んだ人というのは、たとえばこういう虚数の概念なんかをきちんとつかんでいるのだろうか、というのも気になってくる。
読了日:1月29日 著者:
タウ・ゼロ (創元SF文庫)タウ・ゼロ (創元SF文庫)感想
一点を除いて絶賛したい。それにしても、ハードSF(科学理論や科学技術を主軸としたSF)の傑作というもっぱらの評価だが、そうなのか? むしろ社会派の傑作ではないかという気がする。慣れ親しんだ社会と隔絶され帰還の見込みが立たないなかで孤立した集団を維持していくという設定には、何だか『二年間の休暇』(十五少年漂流記)を想起してしまった。確かにこの作品を楽しむには宇宙論に対する理解も必要ではあるが、そのへんに自信のない人は、それこそ『気が遠くなる宇宙の話』を先に読んでおくといいかもしれない。
読了日:1月23日 著者:ポールアンダースン
夜来たる (ハヤカワ文庫SF)夜来たる (ハヤカワ文庫SF)感想
表題作「夜来たる」「緑の斑点」は面白かったが、他はさすがにちょっと古めかしいかなという印象を受ける。もっとも、それはそれで、古き良きSFを読むという楽しみはあるのだけど。
読了日:1月20日 著者:アイザックアシモフ
幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)感想
電車を乗り過ごしそうになる傑作。「この物語のなかで誰に(どのグループに)感情移入するか」というのは、小説の読み方としてはちょっと子供っぽい気がするのだけど、やはり捨てがたい楽しみの一つなのだと思う。この版では「まえがき」で著者がちょいと弁解めいたことを書いているが、その必要はないと思う。
読了日:1月15日 著者:クラーク
哲学の先生と人生の話をしよう哲学の先生と人生の話をしよう感想
読み進めていくなかで著者がこの相談にどのように答えるかが予想できるような気がしてくる一方で、半分くらいの頻度でその予想はみごとに裏切られるのが面白い。人は思ったほど(あるいは自分でそう思い込んでいるよりも)自由ではないけど、思ったほど不自由でもない、という印象。
読了日:1月12日 著者:國分功一郎
原子力発電 (岩波新書 青版 955)原子力発電 (岩波新書 青版 955)感想
第一刷が1976年というから、もう40年近く前の本。古いといえば古い。しかし、ここで指摘されている問題点はほとんど何も解決されていないのではないか。それもそのはず、何しろ事故を起こした福島の原発はこの本より古かったのだから。この本の記述には「何を甘いことを言っているんだか」と感じる部分もあるが、それはつまり、執筆の時点ではまだTMIもチェルノブイリも福島も起きていなかった、という一点によるのだと思う。過酷事故が起きる前でさえ、これだけのことが書けるのだ。
読了日:1月8日 著者:

読書メーター

これが沖縄の生きる道: 宮台 真司, 仲村 清司: 本

2014年12月28日読了(たぶん)。

随所に興味深い論点がある良い本だとは思うけど、少なくとも(と言うにはあまりにも大きすぎるのだが)在沖米軍基地の問題に関しては、この本は全然ダメだと思う。というのも、問題は「なぜ沖縄に米軍基地が集中しているのか」、あるいは「沖縄の米軍基地を減らしていくためにはどうすればいいのか」というところにあるのではなく、「なぜ本土にはもっと米軍基地がないのか」、ひいては「なぜ本土は日米安保をまっとうに担えないのか」という点にあるからだと思うからだ。在沖米軍基地の問題は沖縄の問題ではなく、本土の問題である。

あと、「沖縄アイデンティティ」や「オール沖縄」という発想に対する批判的な問題提起として沖縄/八重山/宮古相互の差別や対立を指摘するのは正論ではあるのだけど、本土の(つまり宮台の)立場からそれを言うのは、「分割して統治せよ」という発想が裏に透けて見えてしまう。

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