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藤岡換太郎『山はどうしてできるのか』(講談社ブルーバックス)

諏訪地方を頻繁に訪れていることもあって、この著者の『フォッサ・マグナ』を読みたいと思ったのだけど、パラパラと冒頭をめくったら、地質学に馴染みのない人は『山はどうしてできるのか』から読んでほしい、みたいなことが書いてあったので、先にこちらを。

この人の著作は、先に同じブルーバックスで『見えない絶景 深海底巨大地形』『天変地異の地球学』を読んでいるのだが、この『山はどうしてできるのか』が、タイトルは地味なのに一番面白かったかもしれない。『三つの石で地球がわかる』も読みたくなる。そしてたぶんその「三つの石」からは外れるのだけど、この本を読むと沖縄とヨーロッパアルプスの共通項が見えてくるのは実にエキサイティングである。

2012年1月の刊行だが、日本海溝に関する記述の中で東日本大震災への言及はない。行方不明者も多い中で何らかの気遣いがあったのだろうか。しかしこういう学問をやっていると、火山の噴火や地震があっても、災害というよりむしろ学術的な興味の方が先に来たりするのだろうなぁ…。

唐沢孝一『都会の鳥の生態学-カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(中公新書)

近所の緑道で何年か前からオオタカが営巣するようになり、バードウォッチャーが集まるようになったこと。今春、恐らく近所の公園でカラスのつがいが営巣し(ワイヤーハンガーを咥えて飛ぶ姿も見た)、子育てをしている様子が窺えたこと。

そんなことが誘因になって、身近な野鳥に関心が向き、この記事で紹介されていた本書を読むことになった。

いや、実に面白い。上記のような事情があるので、カラスの章と猛禽類の章が特に興味深かったのだけど、もちろん、それ以外の章も。超高層ビルの存在が、都心にハヤブサの生息環境を生み出しているというのが、特に印象に残った(ハヤブサを目撃した経験はないのだけど)。

生態学というのは社会学なのだろうなぁ。

山本義隆『日本近代一五〇年 科学技術総力戦体制の破綻』(岩波新書)

明治維新から今日に至る日本の近代史を、科学技術と国家体制の関係という1本の軸で通観する内容。

著者はよく知られているように東大全共闘の議長だった人物で、したがって、自身が専攻する物理学を含め、学問が人間を抑圧するものになっていないかという問題意識を当時から持ち続けているはず。その遺産と言うべきなのか、私が学生だった頃も「産学協同」に対する批判というのは身近に見聞きするテーマだった。といっても、すでに私の頃には、そんな批判があることすら知らないという学生が大多数だったかもしれないが。そういえば、当時はまだ「産学協同」であって、「産軍学協同」とまではあまり言われていなかった気がする。

教科書的な歴史観だと、第二次世界大戦の敗戦を境に日本の国家・社会はガラリと変わったという把握の方が普通だし、それを前提にして、あるいはその方向性を大切にして考え動いていくことも必要だとは思うのだけど、逆に、ある軸を基準にすれば(本書では科学技術)、明治維新以来の近代日本は一貫した流れの中に置かれている、という視野を持つことは、とても刺激的である(もちろん、タイムスパンの取り方はいろいろであって、たとえば「明治維新を境にガラリと変わった」という史観に対する批判的な検討というのもある)。

科学技術はこうであるべきだ、日本はこの方向に進むべきだ、という主張や示唆は意外なほどに希薄なのだが、その分、自分でいろいろ考えないとなぁと思わせる本。

有名な『磁力と重力の発見』あたりも読んでみたいけど、さすがに私には荷が重いかな…。

 

 

 

相島敏夫・丹羽小弥太『こんなことがまだわからない』(講談社ブルーバックス)

子どもの頃、といってもさすがに中学生にはなっていたかと思うのだが、その頃読んだブルーバックスとして思い出深いのが、この本。刊行が1964年だから、私が生まれる前。私が読んだのは第何刷だったのだろうか。

本書で、科学における未解明の謎として紹介されているもののうち、私が初めて読んだ時点でも恐らくかなりの程度解明されていたものはあったのかもしれない。いわんや、初版から半世紀以上も経った今この本を読むと、ほとんどの項目について「こんなことはもうわかっているのでは?」と感じることになる。

つまり科学はそれだけ進歩したのだ。

ブルーバックス編集部には、『あの「謎」は解けたのか-こんなことがまだわからない・答え合わせ編』みたいな本(あるいはウェブサイトでもいい)を是非出してもらいたいものだ。

とはいえ、そういう時代遅れの内容であっても、この本を読んでいると、何というか「科学の営み」とでも呼ぶべきものを感じることになる。

それは結局のところ、

科学は一つ問題を解くと、また一つ新しい問題を発見します。かくて科学は永久に「未知への挑戦」をつづけていくのではないでしょうか。(本書159ページ)

ということなのだ。

なお、今回あとがきを読んで知ったのだが、本書の元になったのは、「暮しの手帖」「婦人画報」の連載とのこと。なるほど、「暮しの手帖」か。

 

藤岡換太郎『天変地異の地球学 巨大地震、異常気象から大量絶滅まで』(講談社ブルーバックス)

というわけで、本来気になっていたこちらも読む。

これも面白いのだけど、ちょっと手を広げすぎて散漫になっている印象がある。前著『見えない絶景』の方がテーマが絞られていて分かりやすかった。もっとも、入り口としては話題が多彩なこちらの方が入りやすいかな?

藤岡換太郎『見えない絶景 深海底巨大地形』(講談社ブルーバックス)

図書館の新着図書のところに同じ著者の『天変地異の地球学』があって面白そうだったのだが、その前著が本書であるとのこと。図書館の書棚でこちらを見つけて、パラパラとめくっていたところ、日本海溝で人間の生首(実際にはマネキンの頭部)が目撃されるという、一色登希彦の『日本沈没』(小松左京原作によるコミック)に出てくるエピソードが実話であることが分かり、ビックリ。というわけで、こちらを先に読むことにした。

前半は岩手県宮古を出航したヴァーチャル潜航艇が、深海(ときどき空中)を辿って地球を一周する過程で遭遇する海底の巨大地形を観察し、後半はその巨大地形が生まれた謎を想像を交えて考えていく、という構成。当然、話は人類どころか生物さえ存在していない時期にまで遡り、ビッグバンから太陽系の生成にまで及んでいく。

「想像を交えて」というところがけっこうポイントで、その意味ではこの本に書かれている内容の一部は著者独自の仮説にすぎないのだが、そもそもこの分野では想像力を駆使するしかない領域がたくさんあるのだ。それでもコンピューターによるシミュレーションを頼りにできるようになって、かなり変わってきたようではあるけど。

ブルーバックスの常で図版はけっこうあるのだけど、こういう時代なのだから、内容に即したCG動画をYouTubeで観られたりすると面白いのだけどなぁ。

引き続き、『天変地異の地球学』へ。