完結。これまでの三作品に比べると、謎解き要素の多い筋立て。「おりんさん」の再登場はなかった(笑)
シリーズ四作品を読んでみて、やはり一番面白かったのは第一作だな、と思う。この『凶刃』の解説(川本三郎!)でも触れていたと思うが、主人公の青江又八郎が純粋に「浪人」であるのは、第一作だけなのだ。残り三作は、脱藩という体裁を取り用心棒暮らしをしているという設定でも、実は藩のために働いている。第一作では「あの人が来たら潔く斬られよう」という達観があったのも良かった。
というわけで、続編も読む。
幕府直属の「公儀隠密」に比べて、小藩に属する特殊部隊にすぎない「嗅足組」(の女性たち)が強すぎるのに違和感を抱くが、まぁ主人公サイドなので(笑)
前作から引き続き、用心棒仲間の細谷源大夫や口利き屋の相模屋吉蔵といった脇役が良い味を出している。
そういえば以前、琉球民謡関係のライブのお手伝いをしたことがあり、依頼を受けたときに「ティマを出せなくて申し訳ないのだけど」と言われた。「ティマ」=「手間賃」で、要するにノーギャラでよろしくということだなと理解したのだけど、その後ウチナーグチ辞典みたいなサイトで調べたところ、それで正解であった。
この『用心棒日月抄』シリーズを読んでいると、用心棒稼業で稼ぐ報酬が「手間」と呼ばれている。内地でも、ギャラのことを「手間」と呼んでいたわけで、ひょっとすると、元は内地から琉球に伝わった言葉が今も残っているのかもしれない、などと想像する。
『たそがれ清兵衛』『蝉しぐれ』に続き、藤沢周平作品。
これも面白かった。
数年前にまとめて読んだ葉室麟の連作も赤穂浪士の討ち入りが背景になっていたのを思い出す。こういう、たいてい誰でも知っている事件のサイドストーリーを描くのは、まず間違いなく面白くなるような気がする。『忠臣蔵』は昔、子ども向けのバージョンで読んだきりだと思うのだが、吉良邸の隣、土屋家の高張り提灯が塀際に掲げられている、という本作でも描かれる情景はよく覚えている。
そういえば、たとえば「宮本武蔵なら吉川英治」みたいに、現代の時代小説(という言い方も変だけど)における『忠臣蔵』の定番というのはあるのだろうか。
本作末尾にかけていろいろ伏線が張られているので、続編も読むことになりそう。
しかし主人公、本作では最終的に美しい許嫁と結ばれるのに、伏線的には他にも複数の魅力的な女性と関わりがあって、困ったことになりそうな予感がある。