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上野裕一『激動する日本と世界のラグビー』(辰巳出版)

確か吉祥寺のカンタベリーショップに置かれていて気になった本。

基本的には、サンウルブズを潰した日本ラグビー協会の守旧派、といって悪ければアマチュアリズム信奉派理事への恨み節。誰がそれに該当するのかは明示されていないけど、スーパーラグビー参戦を支持していた理事などの名前は実名で書かれているので、当時の理事会のメンバーを調べればだいたい見当はつく、といったところ(いや、実際には調べてませんが・笑)

そういう告発の書としての要素が大きいので読んでいて楽しいばかりの本ではないのはもちろんなのだが、それでも、著者のサンウルブズ愛、ラグビー愛が横溢していて、とても共感できる一冊。特に、2019年の「ウルフパック」に対する違和感については、私自身も強烈に感じていただけに、よくぞ書いてくれたという思い。サンウルブズが日本代表強化のツールとしての位置付けで出発したにもかかわらず(その意味でも「ウルフパック」は奇妙な存在だった)、それを超越した存在としてファンに愛され、日本に従来とは違うラグビー文化を生み出したという点を、ジャパンエスアール社員の言葉を交えつつ語っているところが良い。

刊行は2019年7月。つまり、2019年ワールドカップが成功するのか、日本代表の強化はうまく行ったのかという、「答え合わせ」を待つことなく書かれた潔い本だが、その潔さは十分に報われていると思う。

 

マーガレット・アトウッド『獄中シェイクスピア劇団』(鴻巣友季子・訳、集英社)

いやぁ、とにかく面白かった。実はアトウッドを読むのはこれが初めてなのだけど、意外なほどにエンターテイメント。冒頭の、裏切り~没落~隠遁部分からして、お馴染みの進行とはいえ(何しろシェイクスピアなのだから)ぐいぐい引きこまれる。

そして『テンペスト』の稽古に入ってからは、妙な言い方だが「ああ、大学でこういう講義を受けてみたかったなぁ」という感じ。私は大学時代から零細社会人劇団に至るまで芝居に関わっていたので作品を作っていく過程はたいへん面白く読めるのだけど、デューク先生の指導は、演出家というより英文学の教授のようだ。私は文学部出身であっても、いわゆる「文学」の講義を受けたことはないのだが、大学ではこういう面白い文学講義もやっているのだろうか。

惜しむらくは肝心の復讐のシーン。さすがにそういう手段を使うのは(そしてそれが計算どおりにうまく行ってしまうのは)、ちょっと安易ではないか、という気がする。もっと心理的に追い詰めるような作戦を取ってほしかった…。

訳は期待どおりに素晴らしい。割り注がやや煩い気もするが、やはりこれは必要なのだろう。原文で(原文も)読みたいと思わせる翻訳だが、この場合は、良い意味の方である。

そして何より、『テンペスト』を読みたい(あるいは舞台で観たい)と思わせる点で、「語りなおしシェイクスピア」という企画は成功しているのだ。