歴史研究者の視点から、過去の天災(本書で扱われているのは地震、津波、台風による高潮)の記録に当たって、現代への教訓を読み取ったり、歴史の流れに与えた影響を分析する、という本。
文化的な要因が被害のありかたに影響したという分析がなかなか興味深い(瓦屋根が普及し、その重さに構造的な強度が追いつかずに建物の倒壊に至るとか、親孝行の道徳ゆえに老親を助けるため子どもを見捨ててしまうとか)。また、秀吉が家康を討伐しようとしていたところ、地震の被害のために戦争準備が阻害されて家康は命拾いしたとか、幕末の佐賀藩で高潮被害を防げず大きな被害を出したことで世代交代を強いられて改革が進んだとか、そういう話も良い。
ただ、そういう「日本史を読み直す」という表題にふさわしい部分をもっと語ってほしいし、災害が歴史の流れに与えた影響をもう少し巨視的にパターン化するようなアプローチも欲しかった気がする。
元は新聞(別刷り?)での連載だったものをまとめたようで、腰の入った一貫性のある著作というよりは、気軽に読める歴史コラム集のような体裁なので、そこまで期待するのは筋違いか。
とはいえ、章によって差があるのだけど、「妻が『朝ごはんぐらい食べていって』というのを振り切り、家を飛び出した」とか「私は、妻に手渡されたリンゴ一切れを口にくわえたまま浜松駅バスターミナル八番乗り場に急いだ」みたいな記述は、書籍にするときは整理してもよかったのではないかなぁという気がしてならない。
Amazonに掲載された書影を見ると、帯に「日本エッセイスト・クラブ賞受賞!」とあるが、エッセイとして読むのであれば、他にも魅力的なものはけっこうありそうに思うのだが……。