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梅田望夫『ウェブ進化論-本当の大変化はこれから始まる』(ちくま新書)

2006年に刊行された有名な本。私も当時(といっても、下手をすると何年か遅れだったかもしれないが)、読んだ覚えがある。

15年ちょっと経過した今、「答え合わせ」をするのは、あまりにも痛ましいと言うべきか。著者自身が「あとがき」で触れているように、「オプティミズム」(楽観主義)を常に意識して書かれたものであるだけに、その楽観的なビジョンが裏切られたという現実がある今、これを読むのは辛い。

しかし、「何がうまく行かなかったのか」「なぜ間違えたのか」を考えるという意味では、今こそ読むべき本なのかもしれない。

「うまく行かなかった」のは、本書でも再三出てくる「玉石混交」を「玉」と「石」に選別する作業である。いや、選別作業そのものは着々と進んでいる。しかし、第一に、選別の基準(ネット民主主義)が必ずしも適切ではない、という問題がある。これは確かメレディス・ブルサード『AIには何ができないか』だったかで詳しく言及されていたと思うが、要するに「人気のあるものが優れているわけではない」ということ。第二に、そしてもっと重要なのは、仮に適切な基準で「玉」と「石」を選別したところで、「石」が消滅するわけではない、という点。人によっては「石」ばかりを掴まされてしまうというのが現実だし、古くからある「石」もいつまでも転がり続けている。

こうして「玉石混交の選別がうまく行くはずだ」という著者の楽観は、現実にはあっさり裏切られてしまったのだが、その兆しはすでに本書の中にも現れている。

実は、今になってこの本を読もうと思ったのは、内田樹氏の、このツイート以下の一連の投稿を読んだのがキッカケである。

これに続く投稿でウチダ先生は、

「私は正しい投票行動をした」と思いたい有権者は「どの公約が適切か?」ではなく「どの政党が勝ちそうか?」を予想するようになる。

と分析している。

「ああ、何かの本でこれの典型的な例を見たなぁ」と思い出したのが本書なのだ(当初、その部分だけを探そうとしていたのに、見つけた後、結局全部読んでしまった)。

著者は2005年の衆議院議員選挙の際、得意のネット観察を通じて、既存の「政治に関するエリート層」の予測とは裏腹に、「小泉支持のかなり強い風が吹いているのを感じた」。そして、母親から「今回の選挙は、誰に入れるべきなのか」という相談を受けた著者は、「今回は小泉支持だと伝えた」のである。

10年以上前に本書を最初に読んだときも、この箇所で、「え、なんでそうなる?」と仰天したのを覚えている。私が考える投票行動とはまったく違うからだ。

著者はまさにここで、ネット民主主義による「人気のあるものが『玉』である」という危うい選別を採用してしまっている。こういう見当違いの楽観が、ネットにせよ現実の社会にせよ、いま生じているような厄介な事態を生んでしまったのだろうなぁ…。

 

 

岡嶋裕史『思考からの逃走』(日本経済新聞出版、kindle版)

この著者については、自分はすでにファンと称してもいいくらいに気に入っている。

タイトルは言うまでもなくエーリッヒ・フロム『自由からの逃走』のもじりと思われる。

間違いや失敗を恐れる傾向が強まると、人は自分で判断することを避けるようになる。かといって、他人=他の人間による評価にももちろん間違いや失敗の可能性は付きまとうし、そもそも恣意性や偏見がたっぷり含まれる人間の判断に重要な意志決定を委ねる気にはなれない。だったらむしろ、AIに判断を委ねる方が…。

そういう人がリアルに増えている状況に対する、多面的な分析。

テクノロジー系の著者なので、AIに対してかなりフェアな見方をしているのがこの本の良いところ。引用・参照したい論点は実にたくさんあるので、ひとつひとつ言及はできないのだが、オススメの本である。

この本に欠けている視点というか、物足りない点があるとすれば、AIが常に「単数」で捉えられているように思えるところだろうか。人間の思考に代わって判断・評価を下すAIが並列的に複数存在している状況は当然ありうるわけだし、ではどのAIの判断を採るのかという点で、また人間の選択という要素が復活してくるような気もするのだが。