月別アーカイブ: 2021年3月

宇野重規『民主主義とは何か』(講談社現代新書)

偶然ではあるが、まったく別の角度で、古代ギリシャから説き起こされる歴史を読むことに。

良い本なのだけど、やや教科書っぽいというか、丁寧で網羅的なのは良いのだけど、斬新さでワクワクする、という感じではない。「参加と責任のシステム」という捉え方には何の異論もないのだけど、選挙以外の、たとえばデモや住民運動といった政治参加のあり方や、それを支える教育や文化みたいな部分への言及が不足しているのが物足りない。その意味では、たとえば國分功一郎の本などの方が身に迫ってくる印象があった。

とはいえ、本書はある種の「基本」として、たびたび参照されても不思議のない存在だと思う。本書のなかで言及される参考文献が、すべて邦訳の出ているものというのも、その先に進んでいくためのハードルを下げていて好印象。トクヴィルとアーレントはやはり読まないと、か。

加藤文元『数学の想像力:正しさの深層に何があるのか』(筑摩選書)

『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』の著者による本を何かもう一冊読みたいと思い、これにしてみた。

上掲書の感想で、

それにしても、理論物理にせよ数学にせよ、最先端に行けば行くほど、人間の知性や意識そのものをじっと覗きこんでいる雰囲気が強く出てくるなぁ。結局のところ、それは哲学ということなのだけど。

と書いたのだけど、これは我ながら(?)けっこう的確だったようで、今回読んだ本書では、延々とギリシャ哲学の話が続くのであった(もちろんピタゴラスを軸に、数学における考え方の話が中心ではあるのだが)。大学時代にいちおう哲学を囓った身としては、懐かしさもありつつ、数学者の視点から語られるギリシャ哲学~近世哲学というのは新鮮だった。『断片集』、まだ実家にあったかなぁ…。

読破にだいぶ時間を要したのだけど、これは再読したいかも。

 

藤本和子『ブルースだってただの唄』(ちくま文庫)

何かで話題になっていて、タイトルにも惹かれて読んだ。

ただし、こういうタイトルではあるが、別にブルースについての本ではないし、音楽についての本でもない。Amazonの紹介にもあるように、1980年代の、米国の黒人女性たちへの聞き書きである。

内容は、とても良い。さまざまな差別を克服する経路として語られることの多い、「教育を受けて社会での地位を向上させ、(この場合は白人と)対等になること」が、必ずしも良い道ではないのだ、という一種の告発には迫力がある。「黒人」といっても一括りにできず、「私がもっと黒ければ、まだ良かったのに」という趣旨の発言などは、まさに当事者からでなければ聞き出せないだろうと思われる。ここで著者に向かって言葉を発した黒人女性たちが(まだ存命であるならば)、オバマ大統領の誕生やBlack Lives Matter、それにハリス副大統領の誕生などをどのように見るのだろう、という興味を抱かずにはいられない。

その一方で、「ああ、彼女たちの言葉は『女ことば』で記されるのだなぁ」という違和感というか、3~40年ほど前、恐らく最も進歩的であっただろう著者の時代に思いを致してしまう。

そういえば、「戦い」や「闘い」ではなく「たたかい」、「日本」「日本人」ではなく「にほん」「にほん人」という表記を好む書き手というのは、ある時期、確かにいたように思うのだが、それはどういう人たちがどういう趣旨でそういう表記を選んでいたのだったか。