公文書管理に関する政府委員を二つ兼任しているという著者が、あとがきでも昨今の事件について苦々しく触れているのも印象的だが、それはそれとして……。
「第二次世界大戦でもし枢軸国側が勝利していた」という大きなifをもとに書かれたのはフィリップ・K・ディック『高い城の男』だが、この本を読みつつ、ふと「もし真珠湾攻撃が行われず、日米開戦が回避されていたら」という想像をめぐらせずにはいられなかった(この本では、「戦争調査会」の資料などに基づいて、どの時点までその分岐点があったのか、ということが時系列的に語られている)。
小津安二郎の『秋刀魚の味』の、「けど、(あの戦争に)負けてよかったじゃないか」「そうですかね。うん、そうかもしれねぇな。馬鹿な野郎が威張らなくなっただけでもね」というやり取りを思い出す。それは確かにそうかもしれない。しかし戦争そのものが起きていなかったら、その後もしばらくは「馬鹿な野郎」が威張っていたのだろうな。とはいえ「戦争が起きてよかったじゃないか」とは言えないわけで……。