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アーネスト・ヘミングウェイ『日はまた昇る』(新潮文庫)

先日依頼を受けた翻訳原稿が、牛追い祭りで有名なパンプローナとヘミングウェイのご縁についての内容で、文中に本作品からの引用が1カ所あった。念のため既訳を参照しようと思って、買い物に出た家人に頼んで駅前の書店で買ってきてもらった(こういう作品をサッと当たり前のように買えるのが、この「駅前の書店」の優れた点である)。当該箇所はすぐに見つかったのだけど、ちょっと意訳しすぎている気がして、結局、自分のオリジナル訳にした。

で、せっかくだからと思って、読んでみた。

けっこう面白かったのだけど、印象的だったのは、パリからバイヨンヌに鉄道で移動し、そこから車を雇って国境を越え、スペインに入る部分。スペインに入ってからの描写が、まさにブエルタ・ア・エスパーニャの中継で目にする風景を彷彿とさせる。と思っていたら、終盤、主人公はサンセバスチャンで現地のレース(クラシカ・サンセバスチャンとは書いていなかったと思う)に参戦するプロ自転車チームの面々と出会い、「ツールドフランスはすごいぞ」みたいに売り込まれる(笑) 翌朝のスタートを見送ろうかと思ったのだけど、起きたらスタート時刻はとっくに過ぎていた、みたいな展開。

釣りが好きな人のための場面もある。

当該の記事は、今でも、ヘミングウェイのこの作品に惹かれてパンプローナを訪れる人は多い、みたいな内容だったのだけど、さもありなん、と思わせる佳作。

 

小野寺拓也、田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット)

良書。

巻末のブックガイドの最初に出てくる石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)などをすでに読んでいるので、私としては「え、そうだったのか!?」という新しい発見はそれほど多くないのだけど、「ナチスは良いこともした」と主張する人たちが挙げる「良いこと」を、よく整理された論点で丁寧に検証している。その意味で、今後、一つのリファレンスとして有益な存在になる本(というか冊子)だと思う。

「おわりに」の部分で、「ナチスは良いこともした」と主張したがる人たちの動機や心理について考察しているのだけど、もちろん批判的な考察ではあるのだが、どことなく、その視線に温かみがあるところも、この本の優れたところだと思う。Twitterで眺めていると、この本を読みもしないで共著者である田野氏に噛みついている人がいるのだけど、そういう人への田野氏の応対も、けっこう穏やかで温かい。