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北村一真『英語の読み方 ニュース、SNSから小説まで』(中公新書)

Twitter(現X)で著者の投稿を見かけて手に取った。

大学受験で身につけた「英文解釈」から、実践的な英語の読みにつなげていく感じの本、と言えるだろうか。「to不定詞」とか「分詞構文」とか、そういう40年くらい前に目にしていた文法用語も頻出する。

例文の量がそれほどあるわけではないので、これ一冊読めば英語が読めるようになるとかいうわけではないけど、取っかかりとしては良い本だと思う。

まぁもちろん私にとっては易々と読める文章ばかりだし、「翻訳」の手引きではないので、添えられている参考訳文は、もう少し良くなるのではないかと思うことも一度ならずあったけど。

私としては、「読み方」それ自体よりも、それをリスニングにつなげていく展望が示されている点がよかったかもしれない。私は翻訳はできても、会話方面はさっぱりなので…。

片岡義男・鴻巣友季子『翻訳問答 英語と日本語行ったり来たり』(左右社)

翻訳家の鴻巣友季子、作家であり訳業もある片岡義男が、英米文学の名作の冒頭を題材として翻訳を試み、それをネタに対談する、という構成。

片岡義男は、いろいろ偉そうなことを言うわりには、訳文そのものはそれほど上手くない。鴻巣友季子は専門家だけあって敬服してしまうが。

なお、末尾に、「Lost and Found in Translationという英語タイトルは片岡義男が考えた」という注記があるが、それなら、そもそも「翻訳問答」というタイトルが何をもじったものかにも言及すればいいのに、と思う(って、それは私の勝手な連想かもしれないのだけど)。

翻訳小説を読むのは好きでも、自分で文芸翻訳をやろうと思ったことはほとんどない私だが、これを読むと、ちょっと自分でもやってみたくなる。まぁそういう仕事は来ないだろうし、仕事の傍ら試みるような暇はないのだけど。

たまたま、この本を読んでいる間に受けた原稿で、ヘミングウェイの一節(といっても登場人物の会話のごく一部)を訳す必要があり、いちおう既訳も参照したのだが、あまり納得できるものではなかったので、結局自分で訳して納品したら、そのまま掲載されたようだ。

 

山岡洋一『翻訳とは何か 職業としての翻訳』(日外アソシエーツ)

翻訳の仕事に手を染め始めたばかりの頃に読んでいれば、と思わずにはいられない。2001年の刊なので、昨今のAI翻訳の発達についてはもちろん考察されていないのが今となっては物足りないのだけど、まだ自分の翻訳スタイルが確立していない頃の人が読めば非常に刺激になるのではないかと思う。

たとえば「『直訳』も『意訳』も、もっぱらそれを非難する文脈で使われる」という指摘なんかは、なるほどと膝を打つ思いである。

ポー『モルグ街の殺人』の一節の訳を三通り紹介しているのだが、最も古い森鴎外の訳が最もこなれているように感じるというのも面白い。

版元品切れになっているようで図書館で借りたのだが、これは古書店で見つけたら迷わず購入する。

英語(外国語)→日本語への翻訳に偏った内容になっているけど、そもそも、ある言語への翻訳はその言語を母語とする者がやるべき、という原則に立っているので、それは当然かもしれない。もっとも実際には、和→英の翻訳は、日本人がやって英語のネイティブスピーカーに校閲をお願いするというパターンが多い。そういった仕事が多い家人に言わせれば、「そもそも日本人でさえ解釈に困るような日本語が多いから、やむをえない」と…。

 

村上春樹・柴田元幸『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』(文春新書)

村上訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を読んだご縁もあるので、これを借りてみた。

う~ん、竹内&朴本を読んだ後だと、「いやいや、あれってもっと面白い小説なんじゃないの?」と思えてならない。

え、感想それだけで済ませるの、と言われそうだが、そうなってしまう。

鴻巣友季子『翻訳教室 ―はじめの一歩』(ちくま文庫)

日頃からTwitterで著者の発信を興味深く読んでいることもあり、また先日読んだ『獄中シェイクスピア劇団』がたいへん面白かったこともあり、あまり私向きではないタイトルではあるが、購入。

「あまり私向きではない」というのは、曲がりなりにも実務翻訳の仕事を続けて30年くらいになるので、いまさら「はじめの一歩」でもなかろう、という意味。

そもそも私は翻訳を志したことは一度もなく、今この仕事をしているのは偶然の産物にすぎない。しかし、もっと若い頃、たとえば高校生の頃にこの本を読んでいたら、どうだっただろうか。真剣に翻訳家の道をめざしていたかもしれない。

つまり、本書はそれくらい面白さと感動に溢れた本である。感動というと大げさに聞えるかもしれないが、いや、子どもたちの訳文を読むと、なんだか本当に泣けてくるのだ。

「こういうのは、こう訳す」みたいな話は皆無に等しいのだけど、原文に向き合うときの態度といった面では、文芸翻訳ではなく実務翻訳の分野であっても妥当するアドバイスはいくらでも見つかる(あえて付け足すとすれば、「悩んだときには原文を何度も音読してみる」くらいかな)。

私がこの本を読む直前に、「めいろま」氏が翻訳という仕事について「他人の言葉を訳すばっかりで自分の意見を言うわけでもなく、全然面白くもない」とTwitterに投稿していたのだけど、そういう勘違いをしている人に読ませたい本である(読まないだろうけど)。

いずれにせよ再読必須。一気に通読したけど、次は付箋貼りまくりかも。