月別アーカイブ: 2018年7月

ジェームズ・R・チャイルズ『最悪の事故が起きるまで人は何をしていたのか』(高橋健次訳、草思社文庫)

旅客機や潜水艦、原子力発電所、宇宙ロケットといった大規模かつ高度で複雑なシステム、「マシンフロント」に私が直面することはおそらく今後もなかろうかと思うのだけど、それでも、日常的なコンピューターシステムや家電製品、乗用車程度のものに触れる場面においても、ちょっと居住まいを正したくなるような本。

この本で推奨されている健全な恐怖心とかオープンなコミュニケーションとかは、そういう日常的な場面においても大切なのだろうと思う。

それにしても、ページ数の都合が大きいのだろうけど(現状でも文庫本としてはかなり厚手)、こういう著作には索引を付けてほしいなぁ。人名と事故・事件名くらいでいいから。

 

岸政彦『はじめての沖縄』(新曜社)

Amazonの商品紹介にもあるように「初めて沖縄に行く人のための基本的な情報、その歴史や文化、そして観光名所の解説はありません」。

著者自身も「めんどくさい、読みづらい」(序章)「役に立たない」「めんどくさい」本(巻末謝辞)と書いている。

実際、悪く言えば同じところをグルグルと回ってどこにも行けていないような、そういう逡巡というか手探りというか、そういう印象の本である。

だから、これまで沖縄とご縁がなかった人が読むと何がなんだか分からないままに終るだろう。

が、それなりに沖縄との接点を持っている人にとっては、歯切れの悪さを感じつつも、十分に「後味の残る」本であると思う。

特に終盤の「ほんとうの沖縄、ふつうの沖縄」「ねじれと分断」の2章はよい。そして最終的には、沖縄について(あるいは「内地」について)語ることを通して、「社会とは何なのか」という興味深い問いが現れてくる。

個人的には、もう10年以上も前の話だけど、同じように沖縄に「ハマった」仲間の1人が、「那覇もずいぶん変わった」と言うのを耳にして、「オレもあんたもたかだか10年前くらいからしか知らないのに『変わった』とかいうのは笑止」と感じたことを思い出した。もちろん、その短い間にも確かに変化は生じていたので、彼が口にした「変わった」は事実ではあったのだけど。

酒井順子『ユーミンの罪』(講談社現代新書)

荒井由実~松任谷由実のデビュー(『ひこうき雲』1973年)から『DAWN PURPLE』(1991年)までのアルバム(すべてではない)を時系列を追って社会学的に読み解くという構え。なぜ1991年のアルバムまでかというと著者がニューアルバムを追いかけていた時期がそこまでだったから、という個人的な理由だし、かの『負け犬の遠吠え』に引き寄せるという意味で我田引水的な解釈も目立つような気がします。

歌の受け止め方なんて人それぞれなのだから、それをこうやって時代背景に合わせて解釈していこうとするとどうしても類型的になってしまって、そこからこぼれ落ちる要素が山ほどあるのは、ある程度、必然なのでしょう。

とはいえ、面白かったです。

私が高校~大学の頃は、その頃創刊された「Men’s Non-no」やその少し前からあった「HOT DOG PRESS」といった男の子向けファッション雑誌で、ユーミンの歌で知る女の子の心理、みたいな特集が何度か組まれていたような気がします(なんで知っているのだろう、という気もしますが)。

ちなみに、本書で取り上げられているアルバムのうち、多少なりとも覚えがあるのは『Delight Slight Light Kiss』(1988年)まで。といっても、「あ~新しいアルバムが話題になっているなぁ」と思ったくらいで、ちゃんと聴いてはいない。『LOVE WARS』(1989年)に収録されている「Anniversary」という曲は知っているけど、たぶん後に出たベスト盤で聴いているのでしょう。

その後の曲はたぶんほとんど知らないんじゃないかな。つまり、私にとっては「昭和」と共に終っている感じ。といっても、彼女の曲をちゃんと聴くようになったのは、むしろその後なんですが。

 

 

 

 

J. K. Rowling, Harry Potter and the Half-Blood Prince (Kindle version)

6作め、かな。

これまででいちばん地味な巻かもしれない。そして、冒険的な要素はもちろん残っているのだけど、シリーズ前半のワクワクドキドキ感は影を潜め、疑心暗鬼と陰のある過去が前面に出てくる。

前々作(炎のゴブレット)から、どうもDumbledore先生の見込み違いというか、この人はそこまで偉大な魔法使いなのだろうか、という疑問が頭を離れない。次の最終巻で「そうか、そういう伏線だったのか」という展開になってほしいものだが……。どうもやはり魔法使いとしてはGandalfの方が偉かったような気がする……って比べるものではないが。

引き続き最終巻へ、と言いたいところだが、他に読むべきものが溜ってしまっているので、それらを優先。