月別アーカイブ: 2020年10月

斉藤健仁『ラグビーは頭脳が9割』(東邦出版)

引き続き、ラグビー本を読む。

2015年5月に刊行されたものだから、RWC2015での対南ア戦勝利以前に書かれたものである。

エディージャパンをはじめ高校・大学・トップリーグと国内各カテゴリーのチームをピックアップしたケーススタディ的な構成。

タイトルはもちろん『人は見た目が9割』(2005年)のパクりなので、あまり内容を的確に表しているとは言いがたい。この本では、戦略・戦術のスマートさに重点が置かれているとはいえ、9連覇中の帝京大学やトップリーグ2連覇の頃のパナソニック・ワイルドナイツが、「頭脳が9割」で勝ち続けたチームであるとは誰も思わないだろう。

とはいえ、何しろラグビーの話、それも自分が熱心に観ている時期のラグビーの話なんだから、つまらないということはありえない。そもそもこの著者が書くものは、ターゲットが自分に合わないと感じることはあっても、基本的に信頼できるし面白い。

 

 

徳増浩司『君たちは何をめざすのか《ラグビーワールドカップ2019が教えてくれたもの》』(ベースボール・マガジン社)

『源氏物語』をゆっくり読み進める一方で、1年前のラグビーワールドカップを振り返る。

著者のように招致・開催の中枢にいた人にとっても、私のように(それなりにディープだとはいえ)観戦だけの一介のファンと同じように、やはりミクニスタジアムのウェールズ公開練習と、9月20日の開会式(これは当然だが)、そして釜石でのカナダチームの活躍(と言ってしまってよかろう)は、あの大会をめぐる大きな出来事だったのだなぁ。

郡上市の少年、名護市辺野古区の少女のエピソードは、2人の健気な言葉と、周りの人々の厚意と奔走によるハッピーエンドに胸を打たれる。もっとも、こうしたハッピーエンドの一方で、残念なこともいろいろあったのは、今後のためにも(「今後」があればの話だが)きちんと記憶しておくべきだろうとは思うけど。

とはいえ、開催前にはものすごく心配していたことを思えば、大成功でしょ、去年のワールドカップは。

昨年のワールドカップとは直接には関係のない、著者の若い頃の体験を含む第5章、招致過程を綴った終章も、構成という点でやや付け足し感はあるが、内容的にはとても興味深い。時系列的には5章(の一部)~終章~1章以降という流れなのだが、それだといかにもありきたりで退屈な本になってしまったかもしれない。

 

井上正幸『これまでになかったラグビー戦術の教科書』(カンゼン)

生で観戦する機会が途絶えているあいだに、こういう本を読んでみる。

率直に言って、出来のよい本とは言いがたい。

昨年のワールドカップで初めてラグビーを観るようになった新人ファンに向かない(※)のは本書の性質上しかたがないのだが、まず、全体の構成がなっていないというか、きちんと考えられていない。

(※ 恐らくそういう人には斎藤健仁『ラグビー「観戦力」が高まる』の方が優る。ただし2013年の本なので古さは感じる)

現代ラグビーの重要なキーワードである「ポッド」は、まず16頁にいきなり登場し、そのまま使われ続けるが、きちんとした説明は第2章「戦術の変遷」の「ポッドの誕生」(69頁)まで待たなければならない。ここを読めば、ポッドについてそれなりに分かるようになるのだけど、実はその後に、「シェイプ、ポッドとは何か」と題した第3章が来る(ところがポッドの説明は第2章の方が詳しいので、屋上屋を架す感が否めない…)。

他にも誤変換(「短調な攻撃」とか・笑)や脱字もめだつ。総じて、上述のような構成の点も含めて、総合的・俯瞰的に見る編集者が不在だったのかな、という印象。

と、ボロクソに貶しているようだけど…読んでいて実に面白かった!(笑)

2019年ワールドカップの日本代表の全試合と、いくつかの注目すべき試合を分析した第4章「2019年ワールドカップ分析」を読み返しつつ、試合の録画を見直したくなるし、それ以上に生観戦、それもゴール裏かスタンド最上方など背番号の良く見える席で観戦したくなる。最初の方に出てくるキック処理のシステムの話も、プレー経験のある人にとっては当たり前なのかもしれないけど、観戦オンリーのファンとしては、「なるほどこうなっているのかぁ」という感じ(内容的に本書のなかではやや孤立していて、ここにもやはり構成上の問題を感じるのだが)。

それなりにJ Sportsの解説とか聞いていて、「なんかシェイプとかポッドとかアンストラクチャーとかよく言われているよなぁ」くらいの観戦経験があれば、構成に難があっても何とか対応できるだろう。

それにしても、ラグビーというのは、こうして見るとものすごく頭を使う競技なのだなぁという印象。もちろんレベルが上がれば上がるほど、考えなくても(あるいは考えないほうが)正しく動けるようになっているのだろうけど。

というわけで、お勧めできないようでいて、実はマニアックなファンにはかなりお勧めである。

『源氏物語(一)桐壺~末摘花』(岩波文庫)

というわけで、読み始めた。

大学受験前の半年やっていたように、寝る前に少しずつ。この岩波文庫版はかなり注釈が手厚いので(見開きの左ページはすべて注釈)、古語辞典は手許にないのだが、何とかなっている(しかし実家から持ってこようという気になりつつあるが)。

まだ感想を云々するような段階ではないのだが、けっこう気に入ったのが光源氏の乳母の子という設定の「惟光」という登場人物。珍しく、名前で呼ばれる。源氏に比べればもちろん身分は下なので腹心の家来というか使いっ走りのような役回りなのだけど、乳兄弟ということで幼馴染なのか、主従関係といっても分け隔てのない感じで、女性に言い寄る画策など命じられて「まったくしょうがないなぁ、この人は」という感じで走り回りつつ、自分もちゃっかり相手の女性に仕える女房など口説いたりしている…。

さて、続けて第二巻に。全九巻だから先は長い。楽しみ。