2015年に読んだ本」タグアーカイブ

街場の五輪論 eBook: 内田樹, 小田嶋隆, 平川克美

ふだんからこの三人が言ったり書いたりすることに親しんでいる人(つまり私だ)にとっては、あまり新鮮味はないし、あっというまに読めてしまう。何というか、考え方の近い三人だけで話をしているので、ちょっと馴れ合いの気味もある。ただ、言っていること自体はきわめてまとも。

「オリンピック開催に反対する人なんているの?」と思っている人は、読んでみるといいかもしれない。まぁそういう人がこの本を読んで考えを変えるかというと、あまり楽観はしていないけど。

 

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なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか | 田口 理穂

脱原発とか再生エネルギー開発とか、もちろんそういう話もあるのだけど、印象としてはかなりの部分が「省エネルギー」で占められいた。

そうなんだよなぁ。

震災直後、あれだけ街中の電飾が消えていたのを思い出す。

なおかつ、脱原発にせよ脱炭素にせよ、この本を読んでもかなり困難な道であることは確かであって、もちろん経済的にそれがプラスになるような可能性を探りつつも、やはり当面は、倫理的な信念がないと難しい。

要は、エネルギーシフトが進むか進まないかは、倫理的な信念の有無の差だよな……。

なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか | 田口 理穂 | 本 | Amazon.co.jp.

アンチヘイト・ダイアローグ: 中沢 けい

対談集。中心的なテーマは在特会などを中心とするヘイトスピーチとそれに対するカウンター行動なのだけど、全般的に、今年9月という出版時期からも、日本の状況の危うさがひしひしと伝わってきて憂鬱になる。

が、そのようななかでも、特に序盤の3人との対談は相手が作家ということもあって「言葉」を軸にした話が面白く、「あ、この人の作品読んでみたいな」と思えるのが嬉しい。基本的に、他の本を読むことへとつながっていく読書は楽しいのだ。

 

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「中国共産党」論 習近平の野望と民主化のシナリオ (NHK出版新書) eBook: 天児慧

別に嫌中本の類ではありません。

伝統的な思想風土にも探針しつつ中国共産党の歴史・現状・未来を分析する本。もはや中国共産党のイデオロギーは必ずしも共産主義ではなくて……みたいな部分は面白いのだけど、人脈の解説とかがややマニアックに過ぎるので、『チャイナ・リスク』(岩波書店)の方がお勧め。新書よりも岩波の叢書の方が読みやすいというのも妙な話だけど。

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平和のための戦争論 ――集団的自衛権は何をもたらすか? (ちくま新書) eBook: 植木千可子

著者は防衛研究所で主任研究官を務めた人で、こういう、何というか「内部」にいた人の話を興味深いと思う傾向が私にはある。

中国はたいした脅威ではないから、却って日本の安全保障にとっては重大な問題である、という指摘は面白い。

あと、基本的な部分として「どういう条件が整うと戦争は起きるのか」(本書第3章「戦争はなぜ起こるのか? どうやって防ぐか?」)という分析は、政治的にどのような立場を取るにせよ、読んでおいて損はないような気がする。

本書を読んだ印象としては、集団的自衛権を行使する必要がない状況であれば、集団的自衛権を認めてもいい、という結論に至るような気がして、その背理が面白い。

ただこの本では、外国(主として中国)に対する安全保障という観点はあっても、集団的自衛権を名目にしてIS相手など非対称な「戦争」に入っていくことに対する分析が不十分であるという気がする。というか、むしろそっちに重点を置いてもいいと思うのだけど。

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Q&Aで読む日本軍事入門: 前田 哲男, 飯島 滋明

基本的に護憲・平和主義に沿って書かれているのだけど、そうかと思うとPKOへの自衛隊派遣についてはわりと積極的な意義を見出していたりして、わりと現実路線なのかなという印象もある。

いずれにせよ、「歴史」という文脈のなかで安全保障を把握していこうという態度が貫かれている印象で、良書だと思う。

 

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集団的自衛権と安全保障 (岩波新書) 電子書籍: 豊下 楢彦, 古関 彰一

このへんのテーマの本を何冊か続けて読んだので、まとめてメモ。

集団的自衛権を行使できるようになると、たとえばイラク戦争みたいな有志連合による戦争に参加する可能性が高まるわけだけど、そのイラク戦争の検証さえまともにできていない日本が集団的自衛権云々なんて100年早い、など、的確な指摘はある(「100年早い」という表現は本書では使われていないけど・笑)。

が、この本はあんまりお勧めしないなぁ。なんか党派的というか教条的というか、ちょっとヒステリックなトーンが強い。そのせいか、文章にだいぶ乱れもあって、クオリティが損なわれている。

 

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エスケープ 2014年全日本選手権ロードレース: 佐藤 喬

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ふだん、グランツールなどのレース中継を観る機会が多いので、それなりに「こういうとき選手は何を考えているのか」という理解はあるので、そこまで新鮮味は感じなかったものの、レース中、個々の選手が何を考えていたのか、ここまで丹念に追った記録というのは類を見ないのではないか。

Amazonのレビューにもあるのだが、肝心要の一人の選手には取材が及んでいない(たぶん海外で活動する選手なので、著者の方針である「直接対面してじっくり話を聞く」取材ができなかったのだろう)のが惜しまれる。

しかしやはり、無線が使えない方がこういう波乱が起きるのだろうなぁ。

 

この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた: ルイス ダートネル, 東郷 えりか

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何らかの原因によって世界の大半が滅び、わずかな人間だけが生き延びた場合、どうすれば文明を復興することができるだろうか。

サバイバル本のような設定だが、実際のところ、これまでの科学・技術の発展をたどる、文明史的な内容になっている。世界史の流れは(西洋に偏っているとはいえ)いちおう勉強したけど、今の文明を支えている諸々の要素をいかに自分が知らないかということを痛感する。

それこそ「農耕の開始」みたいなところから話は始まるのだけど、蓄積された知識や破壊を免れた文明の遺産をある程度は利用できるというヘッドスタート分はあるが(その能力を持つ人が生き残ることが前提だけど)、一方で、これまでの人類の歩みをそのまま辿り直すこともできない。なぜなら、採掘しやすい場所の石炭や石油はすでに掘り尽くされてしまっているから……みたいな部分に暗然たる気分になる。

民主主義ってなんだ?: 高橋 源一郎, SEALDs

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先の『憲法と平和を問いなおす』の感想で、

裏を返せば、SEALDs他の国会前抗議行動で「これが民主主義だ」と主張するのも、あの問題に関しては的外れなのではないか、とも思える。ただし前者と違うのは、SEALDsの連中(の少なくとも一部)はそういうこともしっかり意識しているだろう、という点なのだけど。

と書いたのだけど、案の定というか、そんなことはしっかり考えているのだということがよく分かる。彼らが中心となっている抗議行動では「民主主義ってなんだ」(Tell me what democracy looks like?)に対して「民主主義ってこれだ!」(This is what democracy looks like!)と返すのが定番になっているが、これって一段階メタな話で、「なんだ?」と問い続けることが民主主義の本質であるということがこの対談本で語られているように思う。

しっかし、ほんと、変な奴らだなぁ(笑) そして面白い。よく勉強していて、頭がいい。ニーチェはともかく、ルジャンドルなんて知らないよ、不勉強で申し訳ない。いろいろ本を読みたくなる本。