月別アーカイブ: 2016年3月

ダンス・ダンス・ダンス(上)(下) (講談社文庫) : 村上 春樹

つながりのある文章ではなく、A4の用紙で1枚からせいぜい3枚くらいの単位の「項目」的なものを次から次へと翻訳する仕事をしていると(この2週間で275枚やった)、なんだかきちんとストーリーのあるものを読んで、頭をきちんと回転させたいというか、「流れる」ようにしたい気になってくる。

で、仕事をしながらふと聴いたRay Charlesの歌から思い出した、この小説を。何度か読んだはずだけど、ずいぶん久しぶりに読み返す。

わりと新しい(それでももう数年前だが)『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に至るまで、同じことを繰り返し書いている作家なのだなぁということを改めて実感。「人は成長しなければいけない」「でも成長というのは基本的には悲しいことだ」という、ほぼ、それだけ。

それだけ、なんだけど、それだけでいいじゃん、というのが私の評価。

 

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句集 龍宮 (単行本) | 照井 翠

岩手県立釜石高校の教諭を務める俳人の句集。2013年に出た本なので、今になってこれを知るというのは出遅れ感が否めないけど……。

文芸の迫力と、ああ、やっぱり文芸が必要なんだということを痛感させる本。映像よりも写真よりも多くを伝える言葉がある。今までたくさんの句が詠まれてきたなかで、それでもまだ十七文字でこれほどの叙情・叙景が可能なのだということに驚く。

作者はあとがきのなかで「このような極限状況のなかで、私が辛うじて正気を保つことができたのは、多分俳句の『虚』のおかげでした」と書いている。さもありなん、と思う。

 

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近藤康太郎『おいしい資本主義』(河出書房新社)

何がキッカケでこの本を知ったのか忘れてしまったのだが(そういうことは多い)、かなり面白かった。

市場環境が厳しくなるなかでライターとして書きたいことを書いて食べて行くために、せめて自分が食べる米だけでも自分で作っていけないか、それも朝1時間田んぼで働く程度で(おかずは物書きとして稼ぐ)、という妄想(?)を、文字通り泥まみれになって実現していくおはなし。

このプロジェクト(?)に踏み切ったのが50歳ということは、今の私とほぼ同い年かぁ。

 

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「在日特権」の虚構 増補版: ネット空間が生み出したヘイト・スピーチ: 野間 易通

……正直に告白しておきたい。それは、私自身もまた、いくつかの「在日特権」をなんとなく信じていた時期があったのかもしれない、ということだ。

最初に「在日特権」という言葉を聞いたとき、私が即座に「そんなものあるわけないだろ!」と思ったかと言えば、否である。もちろん、ネット右翼言論のいいかげんさは知っていたから、眉唾だなという印象はもったものの、はっきりと全否定していたのではなかった。少なくとも、調べなければわからない、とは思っていた。まあ何らかの利権的なものや優遇措置ぐらいはあるかもしれないとすら、思っていたような気がする。

(本書「おわりに」より)

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