『日の名残り』の流れで、イギリスの上層階級の邸宅における執事という存在に興味が湧き、家にあったこの本を読んでみた。駅前の本屋でたまたま見かけて家人が買って読んだ本であるはず。こういう本が「たまたま」置いてあるところが、面白い「駅前の本屋」なのだ(隣駅の書店には規模の点で負けるけど)。
で、この本はたいへん面白かった。『日の名残り』(土屋政雄訳)で「女中頭」と訳されているのは、この本ではハウスキーパーと呼ばれるポジションかな。『日の名残り』における執事の描写とは細かい違いがあるけど(副執事というポジションがあるとか、銀器磨きが誰の仕事か、みたいな点とか)、まぁそのへんは時代や各家庭での違いもあるのだろう。
基本的には、歴史的・実証的な研究というよりは、文学作品を中心とした文献のなかで、執事やハウスキーパー、従僕、メイド、料理人、乳母、下男といった使用人がどのようなイメージで認識されていたか、という研究(そういえば冒頭に近い箇所で列挙されていた使用人の区分には「御者」があったのに、これについて論じた章はなかった)。
したがって、もちろん『日の名残り』も含めて、多くの文学作品への言及・引用があり、いろんな本を読みたくなる危険な読書ガイド、と言えるかもしれない。
文章もかなり読みやすい。
ただ、まったくのゼロからこの本を読んでも「お勉強」になってしまい面白くないかもしれない(一般向けだとは思うけど、研究者が書いた本ではあるので)。何かしら、そういう使用人の登場する(できれば活躍する)英文学の作品(漫画でもいい)を読んでからだと、興味深く読めると思う。クリスティのミステリでもメアリー・ポピンズでも、もちろん時節柄『日の名残り』でもいい。