月別アーカイブ: 2015年5月

モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)| アレクサンドル デュマ, Alexandre Dumas, 山内 義雄

たぶん中学生の頃に読んだ作品の再読(全巻通じて読み返すのは初めてのような気がする)。今のところ3巻まで進んだ。30年以上前に読んだことになるが、印象的な場面は覚えているものだなぁ。

しかし、この翻訳はお勧めできない。特に固有名詞の扱い。しかしいろいろ文句をつけたいところなのだが、調べてみたらこの翻訳、初出は1927年なのか!(文庫の初版は1956年になっているが) それを考えると、この翻訳も無理はないのか。私が昔読んだ講談社文庫版(訳:新庄嘉章、1974年)が絶版になっているのが惜しい。もっとも、かなり有名ではあるものの、多くの人に読まれるべき名作といえるかどうかは疑問なので、あえて復刊させる必要があるかどうかは……(笑) いまやこの作品の翻案である『巌窟王』だって読む子どもは少ないだろうし。

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政治学 (ヒューマニティーズ)| 苅部 直

全編を通じて面白いが、各章の導入部ではすいすいと話が進んでいくのに、章の結末では何とも煮え切らない、地味な結論(?)にたどりつく。しかしむしろそこに、「こうだ!」と断定しきれない著者の逡巡、ためらい、つまるところは誠実さが現われているように思う。この本を読んだ若者が「よーし私も政治学をやるぞ!」と思うかどうかはかなり疑問だけど、「政治」について考えるうえで味わい深い本である。今回は再読なのだが、また読むことは確実。ちなみに、全120頁。最後の読書案内を除けばわずかに100頁くらい。

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日本の反知性主義 (犀の教室)| 内田樹, 赤坂真理, 小田嶋隆, 白井聡, 想田和弘, 高橋源一郎, 仲野徹, 名越康文, 平川克美, 鷲田清一|

複数の論者を集めたものなので玉石混淆……いや、「石」とまでは言わないが、今ひとつピンと来ないものも、しょっちゅうその人の文章を目にしているから新鮮味のないものもあるけど。

白井聡の、啓蒙主義の終わりと反知性主義の勃興をリンクさせて見る考察がいちばん面白かったかな。

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東京奇譚集 (新潮文庫): 村上 春樹

これまで村上春樹の小説を一つも読んだことがないという人に、まず何を勧めるかと言われたら、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』でいいんじゃないかと思うのだけど、それなりに長い。もう少し敷居の低いものというと、いくつもある短編集なのだけど、そういえば、最初に読んだときわりと良い印象を持ったのに一度も読み返していないなぁと思い出したのが、これ。

うん、確かにこれは悪くない。初読時にはピンと来なかった記憶のある最後の『品川猿』がけっこう良かった。

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は、アンチ春樹の読者に対して、「こういうのが嫌なんでしょ、ほれほれ」みたいに自虐的に「春樹調」にしているんじゃないかと邪推したくなる部分があったのだけど(つまり、私にとってさえ、やや鼻につく)、この短編集にはそういうところはないです。自然に「春樹調」(笑) それでももちろん嫌う人は嫌うだろうけど。

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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年: 村上 春樹

奥付を見ると、出版されたのは2013年4月。たぶん発売まもなく買ったのだと思う(その時点ですでに8刷)。最初の数ページを読んだだけで、何となく気分が乗らずに2年放置して、土曜日の夜にふと読み始め、日曜日、移動時間が長かったので一気に読了。

 

まぁ何というか、これ、ダメな人にはダメだろうなぁというのはよく分かります。このリンク↓を作るためにAmazonにアクセスしたら、表示されるのは一つ星の低評価ばかり。レビューの数では五つ星の方が多いんだけど、たぶん、一つ星の方が「そのとおりだ!」と思う人が多いからでしょうね(これ、何かの構図に似ていますが…まぁそこには踏み込まず)。

 

100万部とか売れる本ではないだろう、とは思います(もっと売れたのかな)。この作品を多少なりとも理解して肯定的に評価する人なんて、買った人のうち100人に1人もいないのではないか。しかしもちろん、作者自身は「それでいい」と思って書いているのでしょう。確か、かつて経営していたバーについてだったと思いますが、「訪れる人の10人に1人でも気に入ってくれればいい、という気持ちでやっていた」みたいなことを言っていたし(出典忘れた)。

 

さて、そういう私の感想はどうなのかというと、まず、けっこう普遍的・古典的なテーマ(人によってはそれを陳腐と呼ぶかもしれない)の小説だな、という気がします。あと、構成としては『ノルウェイの森』と同じなのかな、と。むろん、『1Q84』『ねじまき鳥クロニクル』『ダンス、ダンス、ダンス』『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』あたりと通底するモチーフもけっこうあって、その意味で、やはりこの人は「同じこと」について執拗に書いているんだなぁという印象。だから、というわけではないのだけど、この作品にはまったく出てこないのだけど、ついビーチボーイズの曲が頭に浮かんでしまう(Surf’s Upあたりの)。

 

うん、やはり上に書いたように、これ、ダメな人にはとことんダメな小説だろうなぁ(笑)

 

それにしても、高校時代の友人と少しずつご縁が復活している時期に、たまたまこれを読むことになったというのが不思議です。もちろん高校時代の私には、こんなに幸福な(したがって悲劇的な)人間関係はなかったのだけど。

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イギリス史10講 (岩波新書): 近藤 和彦

秋に生まれて初めてイギリスを訪れる予定なので、ふと読んでみた。通史を共著ではなく1人で書くというのはさすがにちょっと無理があるのか、20世紀に入ってから、とたんにつまらなくなったような気がする。

しかしそれにしても、イギリスで生まれたラグビーというスポーツの「代表」が国籍主義ではなくて所属協会主義を取っているのは、やはりこの本で描かれているようなイギリスという国の成り立ちにそもそも由来しているような気がしてならない。日本と同じように大陸に近い島国なのだけど、その社会の原理がまったく違う。

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