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岸本聡子『私がつかんだコモンと民主主義 日本人女性移民、ヨーロッパのNGOで働く』(晶文社)

今年6月に杉並区長選挙を僅差で勝利した岸本聡子区長によるエッセイ。

これまで彼女がどのような道を歩んできたかよく分かる本なのだが、まぁ、正直に言って、意外な部分が多い。

海外のNGOでの経験が長いというのはもちろん区長選のときにも紹介されていたのだが、そうするとやはり、帰国子女か留学経験があって英語(またはその他の外国語)が堪能な人で、他国の先進的な事例をよく知り、「日本は今のままじゃダメだ」みたいな義憤に駆られて、一念発起して帰国して選挙に…みたいなイメージを抱くし、私自身、そういう人もいいなと思って彼女に投票した部分はある。

が、全然違った。

さすがに仕事では英語を使っていたようだが、いまだに「読むのも書くのも遅」く、「書いたものはネイティブの編集者にしっかり直してもらわないと外に出せない」し、メールはパートナーに添削してもらう。20年間オランダで働いても、結局オランダ語の習得は諦め、「『少し』わかっているフリをして[おとなしくて喋らない人のキャラで]会話に参加している素振りをしてきた」。一節のタイトルに「人生は言語ばかり勉強するほど長くない」とある。また「自分をアピールすること、時には自分の能力以上を表現することは当然」であるヨーロッパで、「『はったり』を含めた自信」がないままに過ごしてきたという。

読んでいくうちに、「この人、別に突出した能力のある人ではないのだな」と感じる。言っちゃ悪いが、この人より才能や手腕に恵まれた人はいくらでも思い浮かぶし、ひょっとすると私自身だって、そうかもしれない。何というか、どこか割り切ったり、何かを諦めることで、いろいろハンデを克服してきた人のように思える。

とはいえ、もちろん「筋」はしっかりしている。

彼女が「絶対に忘れないし、許さない」と強い言葉で批判するのは小泉純一郎であり、竹中平蔵については「今も政界にはびこる」と表現されている。つまり、敵は新自由主義なのだ。

その一方で、自分が原発や在沖米軍基地などの面では抑圧者・加害者の立場にあることも認識している。

ひとことで言えば、「まとも」である。

冒頭で触れたように、6月の区長選は得票差が187票という僅差で決着した。しかしこの本が選挙前に出版され、多くの人に読まれていたら、もっと大差がついていたに違いないし、もっと大差をつけて勝利すべき人だったと思う。