伊藤祐靖『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動 』(文春新書)

いったい何がキッカケでこんな表題の本を読もうと思ったのかは忘れた。たしか「こんな表題だけど実は……」みたいな感じで紹介されていて、気になったのだと思う。

結局のところ、「こんな表題」の本でしかなかった。

陸軍中野学校在籍時に蒋介石暗殺の命令を受け、終戦を迎えたけど命令は取り消されていないから有効だと思って、いつでも動けるように週末のたびに幼い息子(=著者)に手伝わせて射撃訓練を欠かさない父親(本書p53~56を要約)、

に育てられ(もちろん、その「命令」は、父親がそう称しているというだけであろう、そんな命令が実際にあったとしても証拠となる文書を残すとは考えにくいし)、

>中学後半から教科書自体を開いたことがない。高校にいたっては教科書を買ってすらいない。大学は、グラウンドと合宿所以外行ったことがない。(本書p76)

>高校、大学の七年間、私は活字すらロクに読まなかった。(本書p78)

……という人生を送ってくると、こうなってしまうのもしょうがないよね、という一つの例である。

もちろん、生物(動物)としての能力は私なんかよりはるかに優れているのだろうし、彼が見出した「戦いの本質」が求められる状況というのは残念ながら現在の(そして将来の)世界にもまだ残っているのだろうけど、人類というのは、そういう状況をなくしていく方向をめざしてきたのだし、今もめざしているのだ。

で、そういうことが分かっていない人というのは、ほぼ必ずと言っていいほど、民族や近代国民国家という物語はあっさりと信じてしまう。

こういう人が「国のため」を思って行動していたら、国がいくつあっても足りない。

自衛隊の現場にはこういう人もある程度は必要なのかもしれないけど、「やっぱり文民統制って大事だな」というのが結論。

帯の「改憲論議の前に必読の書」というのは、誇大ですらない嘘ですよ。著者の憲法に対する理解なんて小学生以下なんだから。

 

 

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