2015年に読んだ本」タグアーカイブ

東京奇譚集 (新潮文庫): 村上 春樹

これまで村上春樹の小説を一つも読んだことがないという人に、まず何を勧めるかと言われたら、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』でいいんじゃないかと思うのだけど、それなりに長い。もう少し敷居の低いものというと、いくつもある短編集なのだけど、そういえば、最初に読んだときわりと良い印象を持ったのに一度も読み返していないなぁと思い出したのが、これ。

うん、確かにこれは悪くない。初読時にはピンと来なかった記憶のある最後の『品川猿』がけっこう良かった。

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は、アンチ春樹の読者に対して、「こういうのが嫌なんでしょ、ほれほれ」みたいに自虐的に「春樹調」にしているんじゃないかと邪推したくなる部分があったのだけど(つまり、私にとってさえ、やや鼻につく)、この短編集にはそういうところはないです。自然に「春樹調」(笑) それでももちろん嫌う人は嫌うだろうけど。

Amazon.co.jp: 東京奇譚集 (新潮文庫): 村上 春樹: 本.

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年: 村上 春樹

奥付を見ると、出版されたのは2013年4月。たぶん発売まもなく買ったのだと思う(その時点ですでに8刷)。最初の数ページを読んだだけで、何となく気分が乗らずに2年放置して、土曜日の夜にふと読み始め、日曜日、移動時間が長かったので一気に読了。

 

まぁ何というか、これ、ダメな人にはダメだろうなぁというのはよく分かります。このリンク↓を作るためにAmazonにアクセスしたら、表示されるのは一つ星の低評価ばかり。レビューの数では五つ星の方が多いんだけど、たぶん、一つ星の方が「そのとおりだ!」と思う人が多いからでしょうね(これ、何かの構図に似ていますが…まぁそこには踏み込まず)。

 

100万部とか売れる本ではないだろう、とは思います(もっと売れたのかな)。この作品を多少なりとも理解して肯定的に評価する人なんて、買った人のうち100人に1人もいないのではないか。しかしもちろん、作者自身は「それでいい」と思って書いているのでしょう。確か、かつて経営していたバーについてだったと思いますが、「訪れる人の10人に1人でも気に入ってくれればいい、という気持ちでやっていた」みたいなことを言っていたし(出典忘れた)。

 

さて、そういう私の感想はどうなのかというと、まず、けっこう普遍的・古典的なテーマ(人によってはそれを陳腐と呼ぶかもしれない)の小説だな、という気がします。あと、構成としては『ノルウェイの森』と同じなのかな、と。むろん、『1Q84』『ねじまき鳥クロニクル』『ダンス、ダンス、ダンス』『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』あたりと通底するモチーフもけっこうあって、その意味で、やはりこの人は「同じこと」について執拗に書いているんだなぁという印象。だから、というわけではないのだけど、この作品にはまったく出てこないのだけど、ついビーチボーイズの曲が頭に浮かんでしまう(Surf’s Upあたりの)。

 

うん、やはり上に書いたように、これ、ダメな人にはとことんダメな小説だろうなぁ(笑)

 

それにしても、高校時代の友人と少しずつご縁が復活している時期に、たまたまこれを読むことになったというのが不思議です。もちろん高校時代の私には、こんなに幸福な(したがって悲劇的な)人間関係はなかったのだけど。

Amazon.co.jp: 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年: 村上 春樹: 本.

隠喩としての病い エイズとその隠喩 (始まりの本): S.ソンタグ, 富山 太佳夫

面白い点は随所にあるのだが、どうにもまとまりがない印象。こまめに情報カードにでも抜き書きをして(今どきならマインドマップか)、整理分類しながら読めば得るところは大きいのかもしれない。そういう、学生的な読みをするなら良い本だが、通勤電車のなかで通読するにはちょっと。翻訳も今ひとつお勧めできないなぁ。

 

Amazon.co.jp: 隠喩としての病い エイズとその隠喩 (始まりの本): S.ソンタグ, 富山 太佳夫: 本.

渡辺明の思考: 盤上盤外問答: 渡辺 明

旧友のFacebook投稿で行方尚史が名人位に挑戦することを知り、ふと棋書を手に取ってみたくなったのだけど、久しぶりなので柔らかめがいいなと思って気になったのがこれ。直接将棋に関係する部分ももちろん良いのだけど(やっぱり羽生に対する評価が興味深い)、たとえば競馬とかぬいぐるみとか、関係ない部分も面白い。連盟の運営について触れるあたりでは、ラグビー協会の運営なんかとも絡めて読んでしまうなぁ。

将棋に対する関心が、『三月のライオン』が好きというくらいの人でも楽しんで読める本だと思います。

Amazon.co.jp: 渡辺明の思考: 盤上盤外問答: 渡辺 明: 本.

ヘイト・スピーチとは何か (岩波新書): 師岡 康子

テーマがテーマだけに、読むのがしんどい。しかし、とりあえず「はじめに」「あとがき」だけ読んでも価値のある本だと思います。

ヘイトスピーチを「憎悪表現」などとするのは誤訳であって、たとえば時の権力者を批判するのは、それが罵倒と言ってもいいような表現であろうと、構造的にヘイトスピーチでは「ない」(それが誉められたことかどうかは別として)。

私と遠い立場にある人のためにもちょっと弁護しておくと、書店で見かけるいわゆる嫌中反韓本の類も、それがたとえば近隣国の政権や権力者を批判する限りにおいて、それ自体としてはヘイトスピーチには該当しない(それが日本国内でのヘイトスピーチに直結するリスクはそれなりに高いとはいえ)。

その理由は、この本を読めば分かります。

Amazon.co.jp: ヘイト・スピーチとは何か (岩波新書): 師岡 康子: 本.

ぼくたちが聖書について知りたかったこと (小学館文庫): 池澤 夏樹

3月14日読了。イスラームお勉強の続きで、つい、これも。対談形式で読みやすいのだけど、何だか双方が分かっていることを「これはこうですよね、ああですよね」みたいに確認しているだけという雰囲気があって(内容的には全然そんなことはないのだけど)、今ひとつわくわくしない。井筒本は「講演」であって、筆者の識見をひたすら伝える形なのに、知らないところにぐいぐい連れて行かれる高揚感があった。

とはいえ、「あ、やっぱり聖書を読みたいな」と思わせるのは確かなので、悪い本ではない。四福音書は何度か読んだけど、他はあんまり知らないしなぁ。

Amazon.co.jp: ぼくたちが聖書について知りたかったこと (小学館文庫): 池澤 夏樹: 本.

「昔はよかった」と言うけれど: 戦前のマナー・モラルから考える: 大倉 幸宏

3月15日読了。公共空間でのマナー、子供のしつけ、職業的な倫理、児童虐待や高齢者虐待、などなど。モラル低下が言われるこの国の昨今だけど、実は今の方がだいぶマシ、という結論。結局のところ明治維新~戦前の日本は西洋文明を摂取しても文化までは輸入しなかったという点と、衣食足りて……的な点なのだろうなぁという印象なのだが、「今の方がだいぶマシ」という状態に至ったのはもっぱら後者の要因が大きいように思う。というわけで、いろいろ気持ちの余裕がなくなってきてまた地金が出てきているのではないかと。

Amazon.co.jp: 「昔はよかった」と言うけれど: 戦前のマナー・モラルから考える: 大倉 幸宏: 本.

偽善のすすめ: 10代からの倫理学講座 (14歳の世渡り術): パオロ・マッツァリーノ

著者のブログの最近の記事にあった「以前から私は、偽善はべつに悪くないと主張し、偽善者になれと勧めてきました。偽善者は、動機がどんなに不純でも、結果的にだれかを救っているからです」という主張を、中学生くらいを対象に丁寧に展開した本。中学生向けということですらすら読めるし得るところは多いと思うので、お勧め。キリスト教の扱いがあっさりしすぎているのは物足りないけど、さすがにここに踏み込むと紙数がいくらあっても足りなくなるのだろう。

ちなみに区立図書館で「偽善のすすめ」で検索をかけたら、この本と丸山真男著作集の二冊がヒットしたので両方借りてみて、丸山真男の同タイトルのエッセイを先に読んでみたら、やはり本書でもそのエッセイは引用されていた。

Amazon.co.jp: 偽善のすすめ: 10代からの倫理学講座 (14歳の世渡り術): パオロ・マッツァリーノ: 本.

わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫): 岡田 利規

う~ん、悪くはない。でも自分にとってこれが特別というほどの印象もない……。感想になっていないな(笑) 著者はある劇団の主宰者らしいのだけど、先に読んだ川上弘美の小説が何だかすごく自分のなかの演劇欲(?)をかきたてるのに対して(やらないけどね)、この小説を読んでも、この著者の芝居を観に行こうという気にはあまりならなかったなぁ。いや、小説としては悪くないと思うんだけど。

 

Amazon.co.jp: わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫): 岡田 利規: 本.

真鶴 (文春文庫): 川上 弘美

静かだけどテンションの高い文体。なんだかすごく演劇的というか。静かでテンションが高いというと平田オリザとかそっち方面になるのだけど、ちょっと舞台にしてみたくなる小説。でもさすがに難しいか。

これも高橋源一郎の本で紹介されていて気になった本。『先生の鞄』とかも読んでみようかな。しかしこの後はやはり高橋源一郎つながりで岡田利規へ。

Amazon.co.jp: 真鶴 (文春文庫): 川上 弘美: 本.