引き続きお勉強中。コーラン冒頭の章の7つのフレーズ「だけ」を時代背景やそれらの言葉を支えている意識的・無意識的なイメージにまで踏み込んで深く深く読む、という試み。これまた、昨今の事件を理解するには、直接的には全然といっていいほど役に立たないだろうけど、たいへん楽しい。岩波の連続セミナーを収録したものだけど、うん、なんだか大学の講義/ゼミみたいな雰囲気だ。
「2015年に読んだ本」タグアーカイブ
インストール (河出文庫): 綿矢 りさ
先に読んだ高橋源一郎『さよなら、ニッポン』で高く評価されていたので読んでみた(この文庫の解説も高橋源一郎)。う~ん、彼が絶賛するほどによいとは思わなかった。全然悪くはないんだけど、普通の、読みやすい小説という印象。彼は「小説は、書いてみないと分からない部分がある」(これに対する批判については『さよなら……』に詳しい)と言っているので、そういうことかもしれない。書く人にとっては、「やられた」という感じなのかも。
さよなら、ニッポン: 高橋 源一郎
基本的には文芸評論を通じて「ニッポンの小説とは何か」をひたすら考え続けていく本。544頁と大部だし、ここで取り上げられている作品はほとんど読んでいないこともあって読了に時間がかかったけど、これに先立つ『ニッポンの小説:100年の孤独』から引き続き、かなり刺激的な本だった。ひとまず、綿矢りさ『インストール』、川上弘美『真鶴』、岡田利規『わたしたちに許された特別な時間の終わり』は読んでみようかと思う。
で、そもそもこのシリーズに手を出したのは、第3部となる『「あの戦争」から「この戦争」へ:ニッポンの小説3』が出版されて、それを読みたいからなのだった。
なんとなく、クリスタル (河出文庫): 田中 康夫
意外に抵抗なく読めた。確かに、実験的な小説としてはすごいのかもしれない。切り取られた日常が、確かにいつかのどこかにある(あった)、という実感ではなく、今もそのへんの平行宇宙に漂っているような、そういう印象。
前半で、「……を大切にしたかった」というフレーズが執拗に続く部分がある。なぜ過去形で繰り返されるのだろう。そのへんを少し考えたくなる。
イスラーム国の衝撃 (文春新書) 電子書籍: 池内 恵
事態の進行にやや遅れつつ、淡々とこんなのも読んでみました。800円の価値はあります。情報量が豊富で、このあたりの状況に詳しくなれると思います。必読とまでは言わないけど、少なくとも今どき、読んで損はない。
……という風に書けば、私を知る人には、「あんまり誉めていないな」と分かっていただけるものと思います。
いやぁ、なんか、「詳しい」と「賢い」は全然違うことなんだなぁとしみじみと感じてしまいました。この本を読めば、読んでいない人よりは詳しくなれますけど、賢くはなれません。賢くなりたければ、先にご紹介した『イスラーム文化』の方を読むべきです。「賢さの定義って何だよ」って思う人がいるかもしれませんが、まぁ、両者を読み比べれば分かるんじゃないかと。
イスラーム文化−その根柢にあるもの (岩波文庫): 井筒 俊彦
時節柄、イスラム(国)に関する本はいろいろ出ているし、それらも読もうと思っているのだけど、お世話になっている自転車店の店主が名前を挙げていた著者の本が書店の棚にあったので買ってみました。
講演録で話し言葉ということもあってとっつきやすいし、3回構成の分け方も的確でわかりやすい。昨今の事件について理解する手がかりになるかというと、そういう即効性はもちろんないのだけど(ただしシャルリーエブド襲撃事件については若干参考になります)、地味なようで知的興奮の伴う、味わい深い良書です。
薦めてくれた人が人だけに、なんか、そのお店で購入したクロモリのロードレーサーとイメージがかぶります。すごく突飛な連想のようだけど、つまり、新しいことについては特に参考にならないのだけど、基本はわかる。現時点で新しいものではないけど、今後も古びそうにない。
というわけで、今年イチオシの本です。いや、まだ1月ですけどね。
「動ける身体」を一瞬で手に入れる本: 中嶋 輝彦
2015年1月10日くらいに読了(実はこういう本もけっこう好き・笑)。
表題には「動ける身体を一瞬で手に入れる」とあるが、むしろ「一瞬で動ける身体」を手に入れる、とするべきではないかと思う。この本が主張するメソッドには確かに一回やるにはさほど時間はかからないけど、それなりの期間、蓄積していく必要はあるみたいだし、そもそも、「チーターなどの野生動物はストレッチも準備運動もなしに、即座に最高速度で行動できるのに、なぜ人間にはそれができないのか」みたいな疑問から始まっている本なので、「一瞬で手に入れる」というより「一瞬で動ける」に比重を置くべきではないかと。
ところでこの「チーターなどの野生動物は……」とかいう話はときどき目にするのだけど、けっこう的外れではないかと思う。「それでも肉離れを起こしたチーターなんて見たことがありません」みたいな感じで続くのだけど、いや、それ分かりませんから。肉離れを起こしたチーターも実はいるのだけど、そういう個体は獲物を捕れずに飢えて死んでしまったのだろうし、同じく一瞬で最高速度で逃げるであろうシマウマのなかでも、たまたまストレッチに不熱心で肉離れを起こしちゃった個体が捕まって食べられてしまうのかもしれない。藪に潜んで獲物を待つチーターや、佇んで草を食むシマウマは、一見動いていないように見えて、実は念入りにストレッチをしているのかもしれない。
と、つい下らないツッコミを入れてしまうのだけど、それはそれとして、この本が推奨するメソッドはなかなか面白く気持ちが良いのでお勧めです。
緋色の研究 (新潮文庫): コナン ドイル, 延原 謙
2015年1月22日読了。
BBS制作のドラマ『シャーロック』の第1話を観たので、原作を読んでみた。ホームズものはたぶん子ども向けにリライトされたものをいくつか読んでいるとは思うのだけど、それも含めても、この作品は初めてかも。
ドラマの方は原作の主要な要素を活かしつつもまるっきり別の話に仕立ててあるのだけど(設定が完全に現代なのだからそれも無理はないが)、その換骨奪胎の作業をけっこううまくやっていたという印象。原作に対する「愛」や「敬意」はしっかりある。
どうしようかなぁ。ドラマの続きを観て、その原作に当たる、という順番にしていこうか。
新南島風土記 岩波現代文庫―新川 明
2015年1月20日読了。
先日読んだ『これが沖縄の生きる道』で言及されていて気になった本。というか、曲がりなりにも八重山民謡をかじっている立場としては、もっと早くに読んでおかなきゃダメだな。図書館で借りたけど、これは購入決定。いずれまた読み返すので。
「あの日」からぼくが考えている「正しさ」について: 高橋 源一郎
確か2015年1月11日くらいに読了。
「あの日」、つまり2011年3月11日とそれ以降しばらくのあいだに、著者がTwitterに投稿したツイートと、通常の媒体に発表した文章の抄録。
私もときどき、事態がどのように進展するか分からなかった当時のツイートなどを読み返すことがある。ああいう時期には、わりとその人の本質が現れるものなのかもしれない。過去に書いたものはたいてい何かしら恥ずかしいものだけど、当時のツイートは、「ああ、オレならこう書くよなぁ」と思えるものばかりのような気がする。
この本に収録された著者のツイートから察せられるのは、「この人は優しい人なんだな」ということ。
え、じゃあ私の当時のツイートからは何が察せられるのかって?
それはヒミツです。