読んだ本」カテゴリーアーカイブ

沖浦和光『竹の民俗誌 日本文化の深層を探る』(岩波新書)

先日読んだ『幻の漂泊民サンカ』と同じ著者。同書で書名だけ触れられていたので気になった。

「海彦・山彦」の物語や『竹取物語』など、子どもの頃~高校生くらいまでに触れた物語に深く突っ込んでいるのが面白い。そしてやはり、サンカや被差別部落も含めて、賎民史というのは、ある意味魅力的なんだよなぁ。

松本博文『棋士とAIはどう戦ってきたか~人間vs.人工知能の激闘の歴史』(新書y)

読了して、「ああそうか、だからタイトルが過去形なんだな」という感慨を抱く。

もはや、人間がAIと将棋を真剣に指すことにはほとんど意味がないのだろう。あるとすれば、プログラムのバグを見つけるという形でAIに貢献するというくらいか。

しかし、だからといって人間にとっての将棋の面白さが薄れるわけでもなく、この本の前に読んだ羽生の本あたりに触発されて、三手詰めの詰め将棋をスマホのアプリで解いている私なのであった(笑)

人工知能全般については、羽生の本の方がはるかに面白いが、将棋ファンにとってはこの本もたいへん面白い。

羽生善治、NHKスペシャル取材班『人工知能の核心』(NHK出版新書)

人工知能の研究・発達を通じて、「知性」とは何かという定義そのものが変わっていくのだろう、という洞察が印象深い。

「人工知能に自然言語は理解できない」みたいな主張をこのところ続けて2つほど目にしたのだけど、羽生はさらに「では我々人間は自然言語を理解できているのか、理解しているとはどういうことなのか」というところまで踏み込むのだよね。やはり凡百の頭脳とはレベルが違う。

もちろん、私も将棋ファンの端くれなので、羽生が語る棋士や将棋ソフトについてのあれこれも面白い。

 

 

沖浦和光『幻の漂泊民・サンカ』(文春文庫)

何がキッカケだったのか忘れたけど「読みたい本」にリストアップしていたことに先日気づき、図書館で借りてみた。

Amazonの紹介によれば、

一所不住、一畝不耕。山野河川で天幕暮し。竹細工や川魚漁を生業とし、’60年代に列島から姿を消した自由の民・サンカ。「定住・所有」の枠を軽々と超えた彼らは、原日本人の末裔なのか。中世から続く漂泊民なのか。従来の虚構を解体し、聖と賎、浄と穢から「日本文化」の基層を見据える沖浦民俗学の新たな成果。

という本。

著者がすでに採取した、かなり重要な証言が最終章まで伏せられているので、何だかズルい構成という気がしなくもない。とはいえ、なかなか面白い本ではあった。結論はつまらないと言えばつまらないのだけど、しかしそうやって差別や蔑視の感覚というのが生まれていくのだなぁという点では意義深い。

吉川一義『失われた時を求めて(8)』(岩波文庫)

挫折したと思われていても挫折していない。

読み進めるにつれ、「これ、もう一回最初から読み返さないと」という気がしてくる。しかし他にも読みたいものはたくさんあるし、そんな暇はないよなぁ……。

この吉川訳はまだ完結していないのだけど、5月に11巻が出たらしい(14巻で完結予定)。なかなか追いつけない。

小澤祥司『エネルギーを選びなおす』(岩波新書)

読み終わったのは5月中。

大筋としては著者の主張に賛同するし、紹介されている事例はどれも素敵なものなのだけど、いずれも、小さなコミュニティの範囲での「エネルギーの選びなおし」に限られているのが気になる。もちろん、そういう小さいコミュニティの実践も積み重なれば大きな違いを生むのかもしれないけど……たとえば東京などの大都市の営みや、鉄道などのインフラを支えるエネルギーを賄うには、やはり大規模集中タイプの発電(原発でなくてもいいけど)が不可欠なのではないか、という気がする。

まぁ突き詰めれば、そういう大都市とか大規模インフラを必要としないような生活が理想なのかもしれないけど、それにはたぶん百年~数百年スケールでの文明観の転換が必要になるだろうな……。

中島岳志『リベラル保守宣言』(新潮文庫)

コンパクトにまとめてしまえば、真の保守こそ今「リベラル」に分類されるような主張を掲げるべき、という内容でしょうか。

基本的に、個々の主題について著者が採る態度には、ほぼ賛同できる。しかし、では自分が著者のいうような「真の保守」なのかというと、それはなんか違う気がします。別に超越者を前提にしなくても理性の限界を考えることは可能だし。ま、同じ山に登るにも道はいろいろある、ということかな。

少しばかり図式的に過ぎる印象もあるけど、分かりやすくまとまっていてよい本です。

北野新太『透明の棋士』(ミシマ社)

「コーヒーと一冊」というシリーズの一篇。しかしこれは、コーヒーを飲みながら気楽に読むにはあまりにも内容が濃いというか、ドラマチックで、泣けます。

3年くらい前の文章が一番新しいと思うので、すでにちょっと内容が古い気もするけど、良書です。『三月のライオン』で将棋に興味を持った人は読んでみるといいかもしれない。あのマンガ同様、将棋の知識はあまり要求されないように思います。

瀬名秀明『パラサイト・イヴ』(新潮文庫)

先日来の超私的「遺伝子ブーム」の流れで、これを読んでみました。

これまた、出発点となるアイデアは面白いのに、「物語る力」が負けている気がします。

ホラー小説だからしかたないのかもしれないけど、恐怖の対象を、視覚・聴覚といった五感で捉えられる存在に転換する(要はモンスターを登場させる)必然が感じられません。まぁ、そうしておかないと映画化とかは無理なんだろうけど、なんかチープな仕上がりになっています。

巻末の筆者の自己解説もやや言い訳っぽい雰囲気があって感心しません。

 

ミシェル・ウェルベック『服従』(大塚桃訳、河出文庫)

しばらく前に話題になっていたので気にしていたのだけど、文庫化されたので読んでみました。

「イスラム主義政党がフランスで政権を取る可能性」という想定の、近未来政治小説とでも言おうか。舞台になっているのは2022年なので、「次」ということになります。国民戦線のマリーヌ・ルペン、フランソワ・オランドといった政治家も含め、実在の人物の名もたくさん出てきます。

しかし、設定というかアイデアはたいへん面白いのだけど、残念ながら、小説としては出来が悪い。

このあいだ終わった2017年大統領選の展開・結果がこの小説の想定とはまったく違ってしまったのはもちろんしかたないとして、そもそも、この小説のなかで設定された状況が、後半になってかなりの程度なおざりにされてしまっているのです。なんか、面白い設定を思いついて書き始めたのだけど、途中で面倒くさくなって放り出しちゃった感じ。

というわけで、興味深い点がなくはないけど、あまりお勧めはしません。