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沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか : 安田浩一

安田浩一の本だからどうせ面白いだろう、私が納得するような結論になるのだろう、と甘く見て(?)いたのだけど、予想を超えて凄い本だった。

沖縄の新聞は本当に「偏向」している、というのが本書の結論……と書いたら誤解を招くだろうか。

何しろ、当の「沖縄の新聞」の一つ、沖縄タイムスの記者は、著者の取材に対して、

「沖縄の新聞は偏向しているのかと問われれば、偏向してますと大声で答えたいです。」(本書108頁)

と答えている。

しかし、その「偏向」は、本書のタイトルがそうなっているように、カギカッコ付きの「偏向」なのだ。その文脈において、「偏向」の反対は「公正中立」ではない。

現在の沖縄2紙に対抗して創刊された保守系の新聞の話なども興味深い(その刊行に携わった中心人物がいま何をやっているのか、は非常に印象的)。

 

沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか : 安田浩一 : 本 : アマゾン.

現代議会主義の精神史的状況 他一篇 (岩波文庫) : カール・シュミット, 樋口 陽一

ナチスの御用学者として知られる著者。

それほど深く読み込んだわけではないけど、なんかこう、わりとよく見る思考パターンが表われているような気がする。

どういうことかというと、ある原理(理想と言ってもいい)が、現実にはうまく適用されていないというだけの理由で、その原理を「使えない」ものとして却下してしまう、というパターン。この本のテーマで言えば、議会主義を支える精神的基盤である「公開性」と「討論」が、現代(というのはつまりワイマール共和国時代だが)の議会ではうまく実現していない、だから議会主義はもうダメなんじゃないか、みたいな考え方(乱暴なまとめ方だけど)。

「独裁」がどのようにして台頭するかみたいな部分は(もちろん独裁を正当化する気味はあるものの)面白かった。

 

現代議会主義の精神史的状況 他一篇 (岩波文庫) : カール・シュミット, 樋口 陽一 : 本 : アマゾン.

民主主義を直感するために (犀の教室) : 國分功一郎

これもコンピレーションもので、冒頭「パリのデモから」など、すでに読んだことのある文章も含まれているのだけど、巻末の「辺野古を直感するために」が気になったので、近所の書店で購入。

政治とはちょっと離れるが、「インフォ・プア・フード/インフォ・リッチ・フード」が面白い。これを読んだ直後に「互閃」の料理をいただいたので、なおさら。あまりにも美味しい料理を食べていると、人はだんだん無口になっていくのではないか。わーわーお喋りをするには、「ほどほど」の店が良い(笑)

 

民主主義を直感するために (犀の教室) : 國分功一郎 : 本 : Amazon.

憲法の無意識 (岩波新書) : 柄谷 行人

四部構成にはなっているけど、第三部・第四部は「憲法の無意識」というテーマからは離れていくし、なんかまとまり悪いなぁと思っていたら、あとがき(の後半)で、これもコンピレーションものであることが判明。ちょっとムリヤリ感があって印象悪い。

本題の「憲法の無意識」論については……「おはなし」としては、まぁ面白いけど、という感じかな。憲法のような論件について、何ら現実の行動につながりようのない説を立てることに意味があるのか、というと……ちょっと面白いからいいか。

憲法の無意識 (岩波新書) : 柄谷 行人 : 本 : Amazon.

日本会議の研究 (扶桑社新書) : 菅野 完

話題の書。

う~ん、日本会議及びその周辺の人々が、どうやって今の状況を築いてきたのかという分析は興味深いし、リベラル側が参考にすべき点も多々あると思うから、この本の意義がないとはいわない。

でも、さすがに終盤、「これじゃよくある陰謀論になってしまわないか?」という雰囲気が濃くなってくる。最後の「淵源」の部分は、流れとしては自然なのだけど、この本の価値を下げている気がするなぁ。1人のカリスマ的黒幕にたどり着いて終わり(しかもその人物には取材すらできていない)、というのでは……。

というわけで、読む価値はあると思うけど、それなりに割り引いて受け止めた方がいいように思う。

 

 

日本会議の研究 (扶桑社新書) : 菅野 完 : 本 : Amazon.

呪いの時代 (新潮文庫) | 内田 樹

近年、ウチダ先生の本はあまりにもたくさん出るし、何か読んだ記憶のあるブログ記事のコンピレーションだったり、いずれにせよ同じことを繰り返し主張しているだけだし、あまり熱心に追いかけず、文庫になったら買うかぁとか、kindleでいいかぁという感じ。

と、ひどいことを書いているが(笑)、それでももちろん、

読めば得るものがある。ネットを中心に、過度に攻撃的になる人が目立っているのにはどういう背景があるのか、というあたりの話。

 

 

呪いの時代 (新潮文庫) | 内田 樹 | 本 | Amazon.co.jp.

双頭の船 (新潮文庫) : 池澤 夏樹

好きなところはたくさんあるので、基本的には高評価。

弔いであり悼みである、そういう話。

主人公の役割が自転車の修理・整備であるというところも個人的にはポイント高い(笑)

だけど、気に入らない点もある。それは「船が大きくなる」ところ。物理的な制約条件についてはリアリズムに徹した方が、非リアリズム(一般的な意味において)の部分が活きると思うのだけど。

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下り坂をそろそろと下る (講談社現代新書) : 平田 オリザ

八ヶ岳方面への往復の電車のなかで読了。

読み始めればすぐに分かるように、本書タイトルの「坂」は、司馬遼太郎の『坂の上の雲』の「坂」とそのまま対応している。『菜の花の沖』や『この国のかたち』など読みたくなる。下り坂には危険も伴うけど、慎重に降りれば悪くないものなのだ。

日本は世界の中心で輝いたことなどなかったし、それ以前に、どんな国も世界の中心で輝いたりしてはならないのだ、という主張がよい。小豆島高校野球部の話もいいし(つい日本ラグビーに引き寄せて考えてしまうのだが)、城之崎のレジデンス型ホール施設の話もいい。本業が劇作家/演出家であるだけに、すぐ「文化」(より端的には「演劇」)の話になっていくところがやや鼻につく感じもあるが(「それでどれだけの人が生活していけるのか」という疑問もあるし)、ひとまず、そこに手掛りの一つがあることはしっかり伝わってくる。

「嫌韓」の分析もけっこう面白い。

著者は、ふたば未来学園高校の創設に関与したことに絡んで、私に近い立場の人たちからもいろいろ批判されていた人ではあるが、その件についても本書中で触れられていて、一読に値する。

下り坂をそろそろと下る (講談社現代新書) : 平田 オリザ : 本 : Amazon.co.jp.