明治維新から今日に至る日本の近代史を、科学技術と国家体制の関係という1本の軸で通観する内容。
著者はよく知られているように東大全共闘の議長だった人物で、したがって、自身が専攻する物理学を含め、学問が人間を抑圧するものになっていないかという問題意識を当時から持ち続けているはず。その遺産と言うべきなのか、私が学生だった頃も「産学協同」に対する批判というのは身近に見聞きするテーマだった。といっても、すでに私の頃には、そんな批判があることすら知らないという学生が大多数だったかもしれないが。そういえば、当時はまだ「産学協同」であって、「産軍学協同」とまではあまり言われていなかった気がする。
教科書的な歴史観だと、第二次世界大戦の敗戦を境に日本の国家・社会はガラリと変わったという把握の方が普通だし、それを前提にして、あるいはその方向性を大切にして考え動いていくことも必要だとは思うのだけど、逆に、ある軸を基準にすれば(本書では科学技術)、明治維新以来の近代日本は一貫した流れの中に置かれている、という視野を持つことは、とても刺激的である(もちろん、タイムスパンの取り方はいろいろであって、たとえば「明治維新を境にガラリと変わった」という史観に対する批判的な検討というのもある)。
科学技術はこうであるべきだ、日本はこの方向に進むべきだ、という主張や示唆は意外なほどに希薄なのだが、その分、自分でいろいろ考えないとなぁと思わせる本。
有名な『磁力と重力の発見』あたりも読んでみたいけど、さすがに私には荷が重いかな…。