鴻巣友季子『翻訳教室 ―はじめの一歩』(ちくま文庫)

日頃からTwitterで著者の発信を興味深く読んでいることもあり、また先日読んだ『獄中シェイクスピア劇団』がたいへん面白かったこともあり、あまり私向きではないタイトルではあるが、購入。

「あまり私向きではない」というのは、曲がりなりにも実務翻訳の仕事を続けて30年くらいになるので、いまさら「はじめの一歩」でもなかろう、という意味。

そもそも私は翻訳を志したことは一度もなく、今この仕事をしているのは偶然の産物にすぎない。しかし、もっと若い頃、たとえば高校生の頃にこの本を読んでいたら、どうだっただろうか。真剣に翻訳家の道をめざしていたかもしれない。

つまり、本書はそれくらい面白さと感動に溢れた本である。感動というと大げさに聞えるかもしれないが、いや、子どもたちの訳文を読むと、なんだか本当に泣けてくるのだ。

「こういうのは、こう訳す」みたいな話は皆無に等しいのだけど、原文に向き合うときの態度といった面では、文芸翻訳ではなく実務翻訳の分野であっても妥当するアドバイスはいくらでも見つかる(あえて付け足すとすれば、「悩んだときには原文を何度も音読してみる」くらいかな)。

私がこの本を読む直前に、「めいろま」氏が翻訳という仕事について「他人の言葉を訳すばっかりで自分の意見を言うわけでもなく、全然面白くもない」とTwitterに投稿していたのだけど、そういう勘違いをしている人に読ませたい本である(読まないだろうけど)。

いずれにせよ再読必須。一気に通読したけど、次は付箋貼りまくりかも。

 

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