翻訳の仕事に手を染め始めたばかりの頃に読んでいれば、と思わずにはいられない。2001年の刊なので、昨今のAI翻訳の発達についてはもちろん考察されていないのが今となっては物足りないのだけど、まだ自分の翻訳スタイルが確立していない頃の人が読めば非常に刺激になるのではないかと思う。
たとえば「『直訳』も『意訳』も、もっぱらそれを非難する文脈で使われる」という指摘なんかは、なるほどと膝を打つ思いである。
ポー『モルグ街の殺人』の一節の訳を三通り紹介しているのだが、最も古い森鴎外の訳が最もこなれているように感じるというのも面白い。
版元品切れになっているようで図書館で借りたのだが、これは古書店で見つけたら迷わず購入する。
英語(外国語)→日本語への翻訳に偏った内容になっているけど、そもそも、ある言語への翻訳はその言語を母語とする者がやるべき、という原則に立っているので、それは当然かもしれない。もっとも実際には、和→英の翻訳は、日本人がやって英語のネイティブスピーカーに校閲をお願いするというパターンが多い。そういった仕事が多い家人に言わせれば、「そもそも日本人でさえ解釈に困るような日本語が多いから、やむをえない」と…。