マーガレット・アトウッド『獄中シェイクスピア劇団』(鴻巣友季子・訳、集英社)

いやぁ、とにかく面白かった。実はアトウッドを読むのはこれが初めてなのだけど、意外なほどにエンターテイメント。冒頭の、裏切り~没落~隠遁部分からして、お馴染みの進行とはいえ(何しろシェイクスピアなのだから)ぐいぐい引きこまれる。

そして『テンペスト』の稽古に入ってからは、妙な言い方だが「ああ、大学でこういう講義を受けてみたかったなぁ」という感じ。私は大学時代から零細社会人劇団に至るまで芝居に関わっていたので作品を作っていく過程はたいへん面白く読めるのだけど、デューク先生の指導は、演出家というより英文学の教授のようだ。私は文学部出身であっても、いわゆる「文学」の講義を受けたことはないのだが、大学ではこういう面白い文学講義もやっているのだろうか。

惜しむらくは肝心の復讐のシーン。さすがにそういう手段を使うのは(そしてそれが計算どおりにうまく行ってしまうのは)、ちょっと安易ではないか、という気がする。もっと心理的に追い詰めるような作戦を取ってほしかった…。

訳は期待どおりに素晴らしい。割り注がやや煩い気もするが、やはりこれは必要なのだろう。原文で(原文も)読みたいと思わせる翻訳だが、この場合は、良い意味の方である。

そして何より、『テンペスト』を読みたい(あるいは舞台で観たい)と思わせる点で、「語りなおしシェイクスピア」という企画は成功しているのだ。

 

 

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