藤本和子『ブルースだってただの唄』(ちくま文庫)

何かで話題になっていて、タイトルにも惹かれて読んだ。

ただし、こういうタイトルではあるが、別にブルースについての本ではないし、音楽についての本でもない。Amazonの紹介にもあるように、1980年代の、米国の黒人女性たちへの聞き書きである。

内容は、とても良い。さまざまな差別を克服する経路として語られることの多い、「教育を受けて社会での地位を向上させ、(この場合は白人と)対等になること」が、必ずしも良い道ではないのだ、という一種の告発には迫力がある。「黒人」といっても一括りにできず、「私がもっと黒ければ、まだ良かったのに」という趣旨の発言などは、まさに当事者からでなければ聞き出せないだろうと思われる。ここで著者に向かって言葉を発した黒人女性たちが(まだ存命であるならば)、オバマ大統領の誕生やBlack Lives Matter、それにハリス副大統領の誕生などをどのように見るのだろう、という興味を抱かずにはいられない。

その一方で、「ああ、彼女たちの言葉は『女ことば』で記されるのだなぁ」という違和感というか、3~40年ほど前、恐らく最も進歩的であっただろう著者の時代に思いを致してしまう。

そういえば、「戦い」や「闘い」ではなく「たたかい」、「日本」「日本人」ではなく「にほん」「にほん人」という表記を好む書き手というのは、ある時期、確かにいたように思うのだが、それはどういう人たちがどういう趣旨でそういう表記を選んでいたのだったか。

 

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