村上敦『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか』(学芸出版社)

これも疋田智さんのメールマガジンで知った本。

先日読んだ『集落再生~「限界集落」のゆくえ』との関連も深い内容。高齢化に伴い、自分で車を運転することが困難な人口が急増することが想定されるなかで、交通工学、というより都市計画の観点から、自動車依存の社会をどう変えていくかというテーマ。

いくつか面白い観点が得られた。

たとえば、「人口密度が高い」というと過密で窮屈な印象があって、「人口密度が低い」ほうがゆとりがあって暮らしやすいような刷り込みがあったけど、実はそうでもない。ある程度の人口密度がないと、たとえば商業施設は商圏を広く取らなければ採算が合わなくなり、広大な地域に大型店が一つだけ、したがってそこへのアクセスは基本的にクルマ、という状況になる。そうすると、クルマを運転できない人は生活が成り立たなくなる。医療にしても行政サービスにしても同じこと。そもそも、過疎とか限界集落とかいうのは、要するに人口密度が低くなりすぎちゃってコミュニティとして成立せず瓦解してしまう状況なのだから、まぁ当然か。

あるいは、シェアド・スペースという試み。自動車、自転車、歩行者などの交通をあえて区分せず、歩道もガードレールも設けず、交通標識も信号もなく、ルールなしに混在させる。必然的に、他の交通主体がどう行動するか気にしながら動かなければならないから、自動車の速度は落ち、お互いに配慮するようになり(教習所で言う「かもしれない運転」だな)、結果的に安全で快適な空間が生まれる、という発想。そんな無茶な、と思うけど、「自動車優先」という思い込みをえぐり出してしまえば、少なくとも市街地では成立する。不安感を高める方が安全になる、ということで、これは自転車は車道を通行した方が安全という話にも直結する(クルマに「邪魔だなぁ、危ないなぁ」と思ってもらった方がいい、ということ)。

というわけで、なかなか良い本なのだけど、最後の「締め」がないのがもったいない。数ページの「あとがき」程度でいいので、付けてほしかった。「あれ?」という感じでいきなり読み終わってしまう。

 

 

 

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