佐藤さとる『だれも知らない小さな国』(講談社文庫)

家人も私も、子どもの頃に読んだ懐かしい作品。昨年末、10歳になる家人の甥にプレゼントしたのをきっかけに、我が家でもシリーズ4作を購入(私がかつて読んだのはここまでだったはず)。

子どもの頃の私は、読書という点では想定された対象年齢よりもかなり上の本を先取りして読んでいたのだけど、このシリーズを読んだのは、それほど幼い時期ではなかったように記憶している。

よく知られているように「コロボックル」と呼ばれる小人が出てくるファンタジーであり、もちろんかつてはそのような作品として読んでいたのだが、実は解説の梨木香歩が驚きをもって指摘しているように、「純度の高いラヴストーリーそのもの」だった。正統派の、いわゆる「ボーイ・ミーツ・ガール」であり、伏線の張り方なども含めて実に巧みに構成された、幸せな涙を誘うお話である。

そして今回、直後に読んだ家人も指摘していたが、「虚構」(いちおう)としてはコロボックルの存在という大きな一つがあるだけで、あとは、物語の序盤に主人公が体験する戦争(父親は「空襲がはじまるころ、船といっしょに南の海にしずんだ」と書かれているが、これは著者の父親がミッドウェー海戦で戦死したことと符合する)、戦後の食糧難を窺わせる記述、里山や田畑を脅かす道路開発とその計画変更、発売予定の新車の愛称募集など、実にリアリティあふれる話になっている。「小山」を脅かすのも、またある意味で救うのも、同じモータリゼーションの異なる側面であるというのも、時代を反映していて面白い。別の本の感想で書いたことがあると思うが、「大きな嘘が一つだけ+周囲を固めるリアリズム」というのは、小松左京のSF作品について誰かの解説が指摘していたことに通じる。

著者による四つの「あとがき」、そして梨木香歩の解説まで含めて、再読、再々読に値する1冊。

 

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