庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』

ふと、この本のどこかに書いてあった何かを無性に確かめたくなったのだけど、実家に残してあると思ったので、ついkindleで買ってしまった。が、家に戻ってみたら、実家から回収済みであった。そして、何を確かめたかったのかはまったく覚えていない…。

せっかくだから、苅部直さんの解説が付された新しい版を読みたかったのだけど、kindleに入っているのは残念ながらその前の版であるようだ。

とはいえ、暇を見つけて、再読。

ちょいと古いなと思わせるところは多々あるのだけど、それでも、現代でも少しの留保もなしに通用する普遍的な要素が垣間見られるのは、さすが(恐らくイオニア派の時代にも通用したのかもしれない)。

そういえばこの作品には、主人公らが対峙する、厭うべき空疎なバカ騒ぎの代名詞として「阿波踊り」という言葉が使われていて、高円寺でしばらく暮らしていた者としては少なからず腹が立つところなのだけど、考えてみたら高円寺阿波踊りも最初は「バカ踊り」と称して開催されていたらしいから、無理もない話なのかもしれない。そのあたりは、まぁ「あまり理解されていなかったのだねぇ」と笑ってやり過ごすところだろう。

Wikipediaのこの作品の項には、サリンジャーのThe Catcher In The Ryeとの類似(ありていにいえばパクり)をめぐる論争(?)の経緯が紹介されているのだが、そんな類似が取り沙汰されていたというのであれば、当時の文学評論の世界はずいぶん貧しかったのだなぁと不遜なことを思ってしまう。

この論争において庄司薫は、

「ぼくは、このような意見に対しては、ただぼくの作品を読んでいただきたい、というほかないと思います」と宣言

したというが、同時に、そうした評者はThe Catcher in the Ryeもしっかり読み直すべきだったのではないか、とも思う。

要するに、優劣はさておき、この二つはテーマも設定も大きく異なる、当たり前だが別々の作品ということであって、表面的な文体の類似に引きずられてそれを読み取れないのは、ちょっとどうかしているんじゃないか、と思うのだ。

 

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