宮田秀明『アメリカズ・カップ-レーシングヨットの最新技術』(岩波科学ライブラリー)

何度か書いているが、J Sportsで放映していたSail GPという大会で「空飛ぶヨット」をたまたま観て仰天し、いったいどういうことになっているのかと気になって、それ以来いろいろと関心が向いている。先日ブルーバックスで流体力学の本を読んだのもその一環だが、もう少しヨットに特化したものを読みたくなって、これを手に取った。

1995年のアメリカズ・カップに挑戦した日本艇の技術責任者が書いたもので、ということは四半世紀前の本であり、タイトルに「最新技術」とあるものの、その意味では古い。まだヨットが空を飛ぶ前の時代である。

とはいえ、艇を「飛ばす」点を除けば、ヨットに掛かる力が変わっているわけではないので、基本的な理解という点ではけっこう参考になった。

参考になったといっても、もう、とにかくややこしい(笑) ええと、風がこっちに吹いているときはセールにはこういう力が掛かって、基本的にはこっちに進むということは、キールと舵にはこういう力が掛かって、そのバランスが云々…なんてことを頭で考えていたらたぶん操作が間に合わないので、実際には、ほとんど反射的にというか、こっちに傾いたからこうだよね、くらいの身体感覚で操っているのかもしれない。それはたぶん自転車の乗り方のコツを言葉で説明されても、実際に乗ってみて、言われたようにやってみなければ頭に入ってこないのと同じだろう。

もっとも、そもそも私が実際にヨットを操縦することは今後もほぼ確実にないだろうし、それどころか、テレビで競技を観る機会もそれほど多くはない(観たいけど、他の競技を観るのに忙しくて観る暇がない)。その意味で私なんぞがこんな本を読んでも、ほとんど何の意味もない。

ただ、本書の著者は、こうした最先端の技術は、一般の人々には縁がないように見えても、そういうものを面白がり、わずかなりとも理解しようとする人たちの裾野が広がることによって支えられる、という趣旨のことを述べ、そのために本書を書いた、と言っている。これは船舶技術に限らず、あらゆる学問や芸術に共通することだろうと思う。私がこの本を読むことによって広がる裾野なんて多寡が知れているが、そもそも裾野というのはそういうものだ。

なお、この本を読んだ後もいろいろ気になって検索してしまったのだけど、ヨットが空を飛び始めたのは2010年代に入ってからなのかなぁ? 今のSail GPで使われているカタマラン(双胴)の艇は少し前のアメリカズ・カップの規定に沿ったもので、アメリカズ・カップでは前回2021年と次回2024年は単胴艇が使われるようだ。空を飛ぶことには変わりないけど。

 

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