ナイジェル・ウォーバートン『「表現の自由」入門』(森村進・森村たまき訳、岩波書店)

ブックカバー・チャレンジで友人が紹介していて読もうと思った本、第二弾。第三弾の『ヒューマン・ファクター』と順序が入れ替わったのは、原書で読み直していたため。

「表現の自由」(あるいは言論の自由、原語ではfree speech)の擁護/制限について、古典的ではあるが今なお有効な出発点としてJ・S・ミル『自由論』の危害原理の紹介から入り、宗教的な文脈での侮辱や中傷、ヘイトスピーチ、ポルノの検閲、芸術作品における表現の自由、著作権の問題、インターネット時代の問題といった感じで、一通り、表現の自由をめぐる論点が網羅されている。このへんを読むと、昨年の愛知トリエンナーレにおける一部作品に対する攻撃も、こうした議論における一つのエピソードとして(それ自体はきわめて底の浅いものであったとしても)俯瞰的に位置付けられるように思う。

ただし、「原書で読み直した」ことから察していただけるように、翻訳の出来はかなり酷い。といっても、「あ~、こういう感じだったのだろうなぁ」と原文がありありと思い浮かぶので、つまり誤訳ではない。この分野の専門家が、正しい原文理解のもとに、何ら工夫することなく「英文和訳」したという印象。

原書を読んでみると、この紙数にこれだけの内容を盛り込むべく、きわめて無駄のない精緻な、したがって込み入った英文になっていることが分かる。確かにこれを翻訳するのはそれなりの力量が必要だ。これ、内容の現代性という点からしても、大学入試の英文読解とかで使うと、かなりレベルの高い問題ができるのではなかろうか。

しかし、一般向けの翻訳書である以上、せめてもう少し工夫してほしかったなぁ。

なお、ナイジェル・ウォーバートンという名前に「おお、ウェールズの人か!」と反応するのはラグビーファンだけ(ちなみにイングランド出身のようです)。

 

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