ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』(池田香代子・訳、みすず書房)

しばらく盛り上がっていた「ブックカバーチャレンジ」。私自身はふだんから読書記録を晒していることもあるし、mixiの頃から「バトンは受けない、回さない」を原則としているので受けなかったのだが、友人知人たちの紹介する本を見ていて、「ああ、これは読まなきゃ」と思ったのは、申し訳ないけどごくわずかしかない。

その1冊が、これ。

いや、あまりにも有名な本なので、意外に思われるかもしれないが、読んでいなかったのだ。新版の訳者である池田香代子さんは『飛ぶ教室』の訳も良かったので、こちらを購入。

たいへん良い本だった。

よく知られたアウシュビッツに代表される強制収容所での体験を、精神分析学者である著者が綴ったものということで、もっと読み進めるのが辛くなるような陰惨な内容なのかと思っていたが、そうでもなかった。平明な新訳の効果もあるのかもしれないが、著者自身がわりとユーモアに溢れている人のようでもある。

内容は、難解な用語や理論はまったく出てこないのだが、きわめて哲学的。我々が生きる意味を問うのではなく、生きることが投げかけてくる問いに我々が答えを出すのだ、と。ここでの「生きること」を宗教的に表現すれば「神」になるわけで、極限状況において、哲学と宗教と心理学(精神分析)は一体化するのだなぁと思う。

『なぜ私だけが苦しむのか』と共通する部分も多いが、こちらの方が強制収容所という極限状況を前提としている分だけ、却って一般化されている(宗教寄りではなく哲学寄り)という印象。

そして、この本を読んで、ふと「ああ、またマラソンを走りたいなぁ」と思ってしまったのは、まぁ分かる人には分かってもらえるだろう…。

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