アガサ・クリスティー『春にして君を離れ』(早川書房・クリスティー文庫、kindle版)

例の鴻上さんの人生相談コラムで紹介されていた作品。彼は以前からたびたびこの作品に言及していたような気がする。その影響で私もたぶん学生時代か20代の頃に一度は読んだはず。

なるほど、文学史に残る名作というポジションではないのだろうが、かなりの傑作。

元々はメアリ・ウェストマコットという別のペンネームで書かれた作品だが、日本では初版時からクリスティー名義で出されたみたい。その方が売れるから、ということだろう。

しかし、そのように別名義で書かれた非ミステリ作品で、殺人事件も盗難事件も起きないし、名探偵が出てくるわけでもないのだが、それでも、ミステリ作家ならではのストーリーテリングの妙が感じられる。ある意味で謎解きだし、背筋にゾクッとくる怖さもある。したがって、内容に触れるとけっこうネタバレになってしまう可能性があるので、ここではあまり踏み込めないが、かなりお勧めである(kindle版で283円って、お買い得感がある)。

ロンドンではない地方都市(クレイミンスターという場所は実在するのだろうか? まだ確認できていない)に暮らすイギリスの家庭(夫、妻=主人公、長男、長女、次女)という設定と、夫の(やや美味しいとこ取りでズルいとも言えそうな)キャラクターから、同じイギリスの『高慢と偏見』と同じ空気が漂っている気がする。

あと、「ううう、そうなるのか」という終盤の展開から『魔の山』を読んでいたときに感じた動揺(?)をふと思い出した。

残念だったのは、タイトルの出典ともなっているシェイクスピアのソネットを、学校時代に暗誦や朗読が得意だったという主人公が思い出そうとする場面があるのだけど、その方面に関して、自分がまったく疎いこと。現代でも、イギリス人なら多少は「ああ、あの詩か」と思い当たる節があるのだろうか。ひとまず、kindleでシェイクスピアのソネット集を入手してみた(英語なら0円)。

 

 

 

 

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