斎藤美奈子『文章読本さん江』(ちくま文庫)

いやぁ、面白かった。

谷崎潤一郎に始まり、三島由紀夫、丸谷才一(以上『文章読本』)、さらには清水幾太郎(『論文の書き方』)や本多勝一(『日本語の作文技術』)、井上ひさし(『自家製・文章読本』)……などなど、枚挙に暇がない「よい文章を書くには」系の手引き書について、メタな視点から論じる本。

途中、著者ならでは(?)の諧謔というか、『文章読本』の教えをパロディにするような書き方がややしつこいというか食傷する感はあるのだが、気になるのはそれくらいか。

この本で何より面白いのは、『文章読本』の分析をいったん離れて、明治以来の「作文(綴り方)教育」を俯瞰する部分ではないか(もちろん最終的には『文章読本』の話に収束するのだが)。「一瓢を携へ」のあたりについクスクス笑って家人に訝られるほど面白い(実はそういう教育を受けたかったと思う変人である)。いや真面目な話、このところ議論を呼んでいる国語教育改革を考える前提としても、非常に参考になるように思う。

むろん、2000年代の本なのでインターネット時代の「文章」をめぐる考察は文庫版への追補程度であり、それも2007年なので、ブログどまりでSNSには至っていないのだけど、それは時代の制約ゆえしかたない。この本に書かれていることを敷衍しつつ、それぞれが考えるべきことなのだろう。

ちなみに私が中学生の頃に我が家でも『文章読本』ブームがあり(例によって「親の都合」なので理由は分らない。子ども=我々の教育のためだったのかもしれないが…)、本書で「御三家」とされている谷崎・三島・丸谷の『文章読本』はすべて読んだ(川端康成のもあったが、これは本書によれば川端本人が書いたものではない剽窃本らしい)。この本を読んでいるあいだに実家を訪れて書棚にそれらを発見したのだけど、改めて読み直そうという気には……ちょっとならなかったなぁ(笑)

 

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