岡嶋裕史『ブロックチェーン 相互不信が実現する新しいセキュリティ』(講談社ブルーバックス))

ようやく分った、と言える良書。

ビットコインを代表格とする暗号資産(a.k.a. 仮想通貨)の世界で、「マイナー」と呼ばれる連中が膨大なコンピューター資源(と膨大な電力)を使って何やら必死に計算しているというのは知っていたのだけど、私は実のところ、彼らが何を計算していて、なぜそれほど大変なのか、という肝心の部分を理解していなかった。

本書は、「まえがき」と「終章」を除くと5章構成なのだが、第1章は「なぜ社会現象になったのか」と題して、流出事件や投機ブームなど、ビットコインなどの暗号資産が社会的話題を集めた経緯を語るごく短いもの。

本体と呼ぶべき残り4章のうち、実に2章分は、ハッシュ関数/ハッシュ値の話(プラス、公開鍵・秘密鍵ペア方式などの暗号化の話も)。これが実に分かりやすい。何しろ、Windowsのコマンドプロンプトを開いて(※)、短い(1文字の)テキストファイルのハッシュ値を求めるところから始まる。

「ブロックチェーン」というシステムの実質について語られるのは、わずかに第4章だけなのだ(この章、ページ数はそれなりにあるが)。でも、それで十分なのである。「ああ、さっき書いてあったことね。だからなのね」で済んでしまう。

なぜなら、ブロックチェーンというのは別に単体として新しい技術ではなく、「一つ一つは簡素で枯れた技術だが、それを工芸品のように組合わせて織り上げた」(本書p234)システムだからだ。

それが分っていれば、何でもかんでもブロックチェーンが解決するなんて景気のいい話があるわけないよ、という説明も納得がいく。先にも書いた「膨大なコンピューター資源&膨大な電力を消費する」点も含めて、その有効な用途はかなり限定されるような印象を受ける。

以前読んだ野口悠紀雄『入門ビットコインとブロックチェーン』あたりを100回読むよりも、こちらを1回読む方がはるかに優る。

この著者の本は以前、同じブルーバックスで『セキュリティはなぜ破られるのか』を読んで、やはり非常に得心がいった覚えがある。彼の説明のしかたは私にとって馴染みやすいようだ。

※ この部分で「???」になる読者には本書もちょっと厳しいのかもしれない。まぁコマンドプロンプトの起動のしかたもいちおう書いてはあるが…。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください