井手英策『幸福の増税論』(岩波新書)

Facebookの友人が、本書を薦める投稿をシェアしていたので、気になって図書館で借りてみた。

10%への消費増税をめぐって賛否が別れるなかで、数値としての結論だけ言ってしまえば、この本で必要とされる消費税率は「19%」である。

これを(読む前から)「面白そう、読んでみよう」と思ってしまうかどうかは、人のどんな特性で決まるのだろう。とりあえず私は、読んでみようと思った口。

経済成長を前提とした「勤労・倹約」を旨とする自己責任社会というビジョンはもう成立しないことを示し、その対案として(現政権支持者が大好きな「対案」)、国・地方自治体による「ベーシック・サービス」の提供を通じた「頼りあえる社会」というビジョンを提示する。

防衛費や公共事業などの「無駄」を削ることではその原資は調達できず、かといって富裕層への課税強化「だけ」でも筋が通らず現実味がないことを示すなかで、上記のような消費増税(実際に19%になるかどうかはともかく)を含めた「パッケージ」の必要性が示される。

むろん、消費税の逆進性云々といった批判への目配りも怠りない。

根拠となるデータや試算について一つ一つ検証することは私の能力の及ぶところではないけど、この本が面白いのは、何よりもまず、「きたるべき社会の姿を堂々と語る」という、いわば社会のグランドデザイン、ビジョンを提示することを旨としている点だ。ジャンルは違うが『憲法9条の軍事戦略』あたりとも共通する、時間的な視野の広さを感じる。

それだけに、そのビジョンの実現にはそれこそ革命的と言ってもいいくらいの社会的な意識の転換が必要だし、「この筆者のビジョンが実現する以前にこの社会は滅ぶんだろうな」という予感の方が強いのは確かなのだが。

 

 

 

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