本多一夫・徳永京子『演劇の街をつくった男 本多一夫と下北沢』(ぴあ)

泣ける。

いや、世間一般には「泣ける」本ではないはずだが、個人的に泣ける。

俳優への道を諦めて飲食店業に転じた後、下北沢の街に本多劇場、ザ・スズナリを頂点にいくつもの劇場を作ってきた本多一夫の一代記なのだが、ちょうど私自身が芝居にハマっていった時期と重なるだけに、しみじみと思い出深い。特に野田秀樹が世話になったという「学生課の金城さん」とか「カレー屋のおかみさん」(グリム館のことであるはず)とかはよく覚えているしなぁ。金城さんは顔までパッと浮かぶのだけど、姓からすると沖縄に縁のある人だったのかなぁ。

本書で何度も言及される「演劇すごろく」(あるいは「劇場すごろく」)、自分も最初の1コマまでは歩を進めたのだなぁ(OFFOFFシアターでは公演した)。まぁ別に「上にあがろう」というほどの意識はなかったような気がするが。

本多一夫という人物は下北沢という街の発展(というか成熟)に大きく貢献していると思うのだけど、必ずしも地元の人がみな彼を評価しているわけではない、という点にしっかり触れられているところも面白い。

本書が残念な点があるとすれば、昨今の下北沢再開発への言及(本多一夫がそれをどう見ているのか)が不足していることか。

いずれにせよ、やっぱりまた芝居を観に行きたくなる。この本で証言者として登場する有名どころの舞台も、実は一度もご縁がなくて観ていない人もいるし(加藤健一事務所とか)。もっと小さいところでは、今も芝居を続けている仲間の公演も、次に案内が来たら顔を出してみようかという気になっているのだが、そういえばしばらくDMが来ないけど、もう見捨てられてしまったかな?

こういう本をどこの出版社が出すのだろうと思って奥付を見たら、そうか、ぴあか。そうだよな。

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