ジャック・ヒギンズ『鷲は舞い降りた』(菊池光・訳、ハヤカワ文庫NV)

会社の後輩が宇宙関係の翻訳をやっていて、「アポロが月に着陸したときの連絡って、”The Eagle has landed.” だったんですね」と言うので、「それって何だっけ。ああ、『鷲は舞い降りた』か」と未読でもタイトルだけはすぐに思い浮かぶくらい有名な作品。NASAがフレーズを小説のタイトルから借用したのなら粋だなと思ったが、アポロの方が先だった。着陸船がEagle号だったのは、アメリカの国鳥だからという理由のようだ。

で、タイトルを知っているわりには何となくご縁がなかったのだけど、ふと興味が湧いて、図書館で借りてみた。

う~ん、有名であるのも当然。

えらく面白かった。これを読むと賢くなるとか、世の中の見方が変わるとか、そういう本ではないけど、エンターテイメントとして上等。

戦争・スパイ・アクション・サスペンス系というジャンルが極端に苦手な人以外には、文句なしにお勧めできる(何を今さら、と言われそうな著名作品ではあるが)。

扉部分の著者の言葉からも、序章(著者ヒギンズが不可解な墓碑銘に出会って、その謎を探り始める)からも、物語の軸になっている「作戦」が何を狙いとしていて、どのような結果に終るのかは分ってしまう。もちろん歴史的な事実から判断して、そのような結果は当然なのだけど、いずれにせよ「冒頭でそれを書いちゃっていいの?」と思うくらい。

それにもかかわらず、その後の展開が実に読ませる。作戦の準備が進んでいく様子も緊迫感があるし、そのような結末につながる決定的な転機も非常に印象的。

そのうえ、死んでいった者たちには教えたくない、不条理などんでん返しも待っている(そこまでやらんでも、という気もするが)。

ううむ。

しかも、この作品が重要な伏線になっている続編『鷲は飛び立った』まであるというではないか(これも図書館で予約してしまった)。

翻訳は菊池光。覚えがある名前だと思ったら、一時期何作か夢中で読んだ(そしてまた読み返したい)「スペンサー」シリーズの訳者。会話の語尾などに違和感がなくはないが、もちろん読ませる。

 

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