先日『夜明け前』を読んだのを機に、ふと国学方面について書かれたものも読んでみようかなぁと思っていたところ、旧知の著者のこの本が目についたので読んでみた。
まるで橋下徹が著者でもおかしくないようなタイトルだが、そうではなく、これは真面目な本(第一章では「日本維新の会」の名称をマクラとして使っているが)。
ペリー来航を機に当時の日本が「文明」に初めて出会い、それまでとはまったく違う新しい社会へと変わっていったという通俗な維新観に疑問を呈し、明治維新を「含む」十九世紀という時期のなかで、すでに市場の発達や「経済」の前景化、それこそ本居宣長に代表される国学のなかでさえ、進歩史観の萌芽や「文明」観の変化が進んでいたことを説き明かす本。
幕末・明治維新について世に語られる個々のエピソードにはさまざまにドラマチックなものがあるのだけど、そういう派手な浮き沈みに目を奪われることなく観察すれば、結局のところ、伏在しているこの種の底流が歴史を動かしているのだろうなぁ、としみじみ思う。
これを読んで『夜明け前』の主人公に思いを馳せると、街道・宿場町の主たる担い手として、そうした勢いを感じうる立場にあった、それなのに…ということが、いっそうその悲劇を際立たせる気がする。主人公を親しく遇する江戸の庶民一家がそれなりに時代に適応していっている様子を見ると、やはり都市住民ではないという点が影響したのかなぁ…。
次に読み始めた本にどうにも「軽さ」を感じてしかたがないので、この著者の、狙いは鋭くとも鉈の切れ味とでもいうべき「重さ」に好印象を受ける。とはいえ、そもそも雑誌連載がベースであり、あくまでも一般向けということで読みやすくはあるのだけど。