サマセット・モーム『お菓子とビール』(行方昭夫訳、岩波文庫)

『英国諜報員アシェンデン』に続き、モームを読む。これも大学時代の友人による紹介なのだけど、訳者が大学の一般教養課程の時に英語の授業でお世話になった人なので、気になった。教材はチェスタトンの随筆集『棒大なる針小(Tremendous Trifles)』だったはず。お世話になったといっても、もちろん私はあまり講義には出席していなかったはずだが(笑)

会社の後輩の披露宴に出席したらこの先生が仲人だったので挨拶したのだが、もちろん教養課程だけで英文科に進んだわけでもない不良学生のことなど覚えていらっしゃるはずもない。

それはさておき。

著名な作家(故人)の伝記を執筆することになった知人から、たまたまその文豪の前半生に付き合いのあった主人公が、あまり知られていない当時のエピソードを教えてくれと頼まれ、気が進まないながらもいろいろ思いだしているうちに、文豪本人ではなく、その傍らにいた女性のことを鮮やかに思い出す、という構図。

ストーリーそのものもなかなか面白いのだけど、知人と主人公のあいだの、けっこう皮肉(嫌味とまでは言わない)に満ちた会話が良い(主人公はその知人のことをあまり好んでいないが、世渡り上手の知人は、主人公とも良い関係にあると思っている。が、皮肉を言われていることはよく分かっていて受け流す、やや軽薄だが愚劣ではない、それなりに出来た人物)。

最後の回想エピソードの手前、リアルタイムの本筋としては最後の場面で、主人公の言葉に対する、文豪の未亡人の反応が味わい深い。

ぜひ読むべき名作というわけでは全然ないだろうけど、佳品。むろん、男性視点に偏っているきらいがあるのは時代ゆえの制約だろうが。

あ、翻訳はところどころ文句を付けたくなる部分があったけど、まぁこれも、昔の翻訳はこんなものだな。

 

 

 

 

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