村上春樹『騎士団長殺し:第1部 顕れるイデア編』(新潮社)

前作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は、何だかアンチ春樹派に向かって「おらおら、君たちこういうのが嫌いなんだろ、ほれほれ」みたいに、まるで自己パロディといわんばかりの雰囲気が感じられた(って、作者自身にはそんな気は毛頭ないのかもしれないけど)。

この新作(といってもちょうど1年前か)にはそこまで露悪的(?)な雰囲気はなく、正統派・純・ムラカミワールドという感じ。

・妻に捨てられる主人公  ・でも新しいガールフレンドと簡単にセックスまで漕ぎつける主人公 ・口座の残高を見るとしばらくは仕事をしないでも暮らしていけそうで、元から生活にお金がかかる方ではない主人公 ・ちょっと不思議な雰囲気のあるローティーンの美少女 ・パーフェクトに見えて弱さのある成功した富裕な男性 ・その男性のクルマは高級外車だけど主人公のクルマは中古の国産大衆車 ・分かる人には分かるロックの名曲 ・分かる人には分かるクラシックの名曲 ・地下の狭い空間  ・理不尽な暴力 ・物語に影を落とす戦前~戦中の出来事

そしてもちろん、現実と異世界のあいだの揺れ動く境界(これが無いとね、やっぱり)

つまり、ラーメンで言えば「全部乗せ」。

と書くとまるでこの作品を揶揄しているようだけど、いちおう私は村上春樹の熱心な読者である(ファンという言葉は使いたくない)。その立場からすれば「おおお、本格長編来た!」と言わざるをえない。

いろいろ正当な批判はあろうかと思うし、批判される要素を入れなければ彼の作品が成立しえないのか、というと、必ずしもそんなことはないと思う。

まぁしかし、そういう点を差し引いても、面白い。

なんとなく「ご縁」というか、奇妙な符合を感じることがときどきある。しばらく前に翻訳原稿のなかで出てきて「何だろう?」と思った言葉が、作品のなかで印象的に使われていたりとか、そういう、たいして重要でないことなのだけど。まぁ要はうまく乗せられているんだろうな。

引き続き、第2部へ。「上下」になっていないことから、続きがあるんじゃないかという話も耳にしたけど……?

 

 

 

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