鴻上尚史『不死身の特攻兵』(講談社現代新書)

舞台の方では30年来のファン(といってもいいだろう)である鴻上さん。へぇ、こんなテーマで本を書くんだ、とちょっと意外に思って読んでみた。全然チェックしていなかったけど、同じ題材に基づくフィクションもこの8月に発表していたのか(『青空に飛ぶ』)。

このノンフィクションの中心人物である佐々木友次氏をめぐるエピソードはもちろん印象的だが(「面白い」というのは語弊があるけど)、それ以外にも特攻をめぐる複数の論点が、著者らしい読みやすい文章で整理されているので(といっても先行文献からの紹介が多いのだけど)、特攻の問題をわずかなりとも考えるうえで良書だと思う。

ちなみに本書のタイトルと「9回出撃してすべて生還した」という触れ込みからは、ものすごい技量を持つ百戦錬磨のパイロットで、米軍と死闘を演じて生き延びたかのような印象を受けるが、実はそんなことはない。「9回出撃命令を受けた」ということであって、実際には離陸すらしていない場合もカウントされている。

が、それはむしろ些末なことであって、出撃命令の目的が、最初はもちろん「体当たり攻撃で米艦を撃沈すること」なのに、だんだん「佐々木伍長を死なせること」に転じていくところが、ほとんどホラーといってもいいくらい狂気である。そして、そんな命令を受けつつ、どうして彼は自暴自棄になって死ななかったのか、という点も実に面白い。

さて、内容的に重複する部分が多いことを承知のうえで、小説『青空に飛ぶ』も読んでみようと思うのだけど、ふと、ね。『永遠の0』も読んでみようかな、と。

むろん、いやーな読後感になるのは覚悟のうえなのだが、調べてみたら、百田尚樹と鴻上尚史の年齢は2歳しか離れていない(百田が年上)。世代の近さというのは思想に影響する要因のごく一部でしかないのは言うまでもないのだけど、どうしてそういう差が生じてしまったのかという興味が、ちょっとある(ま、知性とか教育の差と言ってしまえばそれまでだが)。

幸いなことに、『永遠の0』はすでに図書館でも順番待ちなしで借りられる(笑)

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